フィンランドのチョコレートメーカーFazerは、持続可能なカカオ生産に向けて細胞農業の可能性を調査している。
Fazerはフィンランドの政府系機関Business Finlandから資金提供を受け、フィンランドの国営研究機関・フィンランド技術研究センター(VTT)と共同で、細胞培養カカオの研究開発を行っている。
細胞農業は、細胞を使って必要なものだけを作るボトムアップ式のものづくりをいう。
「生産に必要だった土地や天然資源の使用を最小限に抑えて、農業ではなくバイオテクノロジーを活用した生産」となる。動物の体の外で細胞を増やして肉とする培養肉や、酵母など微生物をミニ工場として特定成分を生産する精密発酵は、いずれも細胞農業だ。
細胞培養によるカカオでは、生産の場は「条件が管理されたバイオリアクター」となる。
Fazer、VTTと共同で持続可能な代替カカオの開発へ

出典:Fazer
Fazerは、エクアドルと西アフリカからカカオを調達している。Fazerの最優先事項は、持続可能なカカオを使用し、収益性の高い農業を保証し、カカオコミュニティの福利を向上させることだ。
しかし、赤道付近のカカオ生産地は気候変動の脅威にさらされており、長期的にはカカオ栽培は困難になっていく。そこでFazerは、持続可能な代替カカオ供給源として、カカオ生産から土地利用を切り離せる可能性を秘めた細胞農業の活用を模索し始めた。
VTTとの共同研究では、細胞培養カカオで良好な成果がすでに得られているが、製品化までの道のりは長いことをFazer ConfectioneryのシニアマネージャーAnnika Porr氏は想定している。
「細胞培養カカオが市販されるまでには何年もかかるでしょう。これは将来を見据えた長期のプロジェクトです。伝統的なカカオを持続可能な方法で管理することはFazerにとって最優先事項ですが、将来に向けて調査し、イノベーションを図りたいと考えています。
細胞培養カカオが食卓に並ぶにはまだ先のことですが、公正で透明なバリューチェーンにおける持続可能なカカオ調達という課題に取り組むための新しいアプローチとなります」(Fazer ConfectioneryのシニアマネージャーAnnika Porr氏)
持続可能なチョコレートの開発が加速

California Culturedの細胞培養チョコレート 出典:California Cultured インスタグラム
チョコレート生産による環境負荷も無視できない。
食品サプライチェーンにおいてチョコレートは、5番目に温室効果ガスを排出する食品とされる。1キログラムのチョコレート生産には17,000リットルの水が必要とされ、牛肉の15,415リットルより多い。
こうした環境負荷から、持続可能なチョコレート生産に取り組むスタートアップは徐々に増えている。
その1つが、明治ホールディングスが出資するアメリカのCalifornia Culturedだ。2020年に設立された同社は細胞培養によるカカオを開発しており、これまでに400万ドル(約5億7000万円)を調達している。
ドイツのPlanet A Foods(旧称QOA)は代替カカオを開発している。目下のターゲットはカカオとチョコレートだが、長期的にはパーム油、ココナッツオイルの代替も視野に入れているという。

チームを率いるHeiko Rischer氏 出典:VTT
チョコレートメーカーであるFazerの細胞農業への参入は、業界全体にとって追い風となるが、消費者が手に取れるようになるまでは時間がかかりそうだ。VTTの研究チームを率いるHeiko Rischer氏は、「細胞培養カカオは欧州では新規食品になりますので、EFSA(欧州食品安全機関)のプロセスに則って承認される必要があります」とコメントしている。
Rischer氏はカカオのほか、コーヒー豆を使わない細胞培養によるコーヒー生産でもVTTの研究プロジェクトを主導しており、フィンランドで細胞農業による代替食の開発が活発化していくことが予想される。
参考記事
Fazer explores cell-cultured cocoa as an option for the future of chocolate
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