精密発酵の受託製造を行うシンガポール企業ScaleUp Bioは、2023年中に食品専用の2つの精密発酵施設を開設することを発表した。
ScaleUp Bioによると、世界の大部分のCDMO(医薬品受託製造)施設は製薬業界やバイオ燃料業界のニーズに適合したものとなっている。食品領域のスタートアップ企業は多くの場合、「食品向けではない環境で、高価で予測できない実験設備に頼らなければならない」状況にあると同社は指摘している。
独自にパイロット施設を建設するには多額の資金が必要となるため、財政面で制約の多いスタートアップ企業にとってスケールアップは主要課題となっている。ScaleUp Bioのビジネスモデルは、スタートアップ企業がスケールアップを実現し、成功するために必要な施設、生産能力、リソースにアクセスする権限を提供することだ。
ScaleUp Bio 、食品用途の精密発酵施設を来年シンガポールで開設
ScaleUp Bioが2023年前半に開設する1つ目の施設は、シンガポール科学技術研究庁 (A*STAR)傘下のシンガポール食品・バイオテクノロジー・イノベーション研究所(SIFBI)と共同で立ち上げる研究所となる。
この施設はスタートアップの研究開発用に特別に設計されたもので、100Lの発酵槽、関連する下流処理設備、試験、最適化のための分析機器をスタートアップ企業に提供する場となる。バイオポリスにあるNurasa(旧称Asia Sustainable Foods Platform)のフードテックイノベーションセンター(FTIC)に設置される。
2つ目の施設は広さ2300㎡で、2023年後半の稼働開始が予定されている。スタートアップ企業やアーリーステージにあるフードテック企業が、最大10,000リットルの発酵槽や関連する下流処理設備にアクセスできる場となる。
この施設はScaleUp Bioの本社を兼ねており、シンガポール西部の新興する食品製造エリアであるトゥアスのLOGOS Food21に設置される。
ScaleUp Bioは、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)とアジアで持続可能な食品の商用化を目指すNurasaによる合弁会社であり、シンガポールの政府系投資会社テマセクが完全所有する会社となる。
ScaleUp Bioはラボからパイロットスケールまで微生物発酵による開発・製造サービスを提供するシンガポールで最初の企業となる。プロセスの最適化とスケールアップでスタートアップ企業を支援し、研究から市場投入に至るまで自社が有するパートナーとスタートアップ企業との結びつきも支援する。
代替タンパク質の精密発酵に特化した工場建設計画
精密発酵企業のスケールアップを支援する動きはScaleUp Bioだけではない。
4月に約10億円を調達したスイスのplanetaryは、2023年第4四半期から2024年第1四半期にかけて20万~50万リットル規模の精密発酵・バイオマス発酵用工場の稼働を予定している。
代替タンパク質用途で精密発酵のスケールアップを目指す米Liberation Labsは、2024年にアメリカで60万リットルの施設を稼働する計画をたてている。
同社はこれに続き400万リットルの商業施設の建設計画も進めており、アメリカ、オーストラリア、中東、ブラジル、東南アジア、欧州の6地域で製造ネットワークを構築することを長期目標としている。これらは総じて2400万リットル規模となる。
Liberation Labsは細胞農業に特化したベンチャーキャピタルAgronomicsの出資を受けている。Liberation Labsの施設が完成すると、Agronomicsのポートフォリオ企業はLiberation Labsの施設にアクセスできるようになり、スケールアップの課題解決につながる。
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アイキャッチ画像の出典:Nurasa