シンガポールの南洋理工大学応用科学部の研究チームは、養殖できない高価値な魚種の独自細胞株の開発に成功したことを発表した。
プレスリリースによると、開発された細胞株はウシ胎児血清(FBS)に代わる植物由来血清で増殖する世界初のものになるという。同チームはこれまで開発に取り組んできた魚種の中で、ウナギで最も成果を挙げられたと述べている。
細胞培養で魚や肉の培養肉を開発するうえで、FBSの使用は倫理的な問題が指摘されたきた。生産プロセスからFBSの使用を除くため、南洋理工大学の研究チームは植物から抽出した代替血清を使用した。植物血清を使用することでコストを大幅に削減できるため、魚の細胞をより持続可能な方法で、大規模に培養することが可能となった。
「ウナギで最も成果を挙げられた」
南洋理工大学応用科学部長のJoel Lee氏はこの成果について、「私たちはさまざまな魚種に取り組んできましたが、最も成功したのは今日養殖できないウナギです。私たちの研究開発を通じて、水産養殖が抱える持続可能性と倫理的な課題を優先して解決しながら、魚細胞をフィッシュケーキや切り身などの製品に変えることができました」とコメントしている。
魚細胞株の開発は、南洋理工大学で水産養殖技術のスペシャリストであるMark Richards氏が主導した。さらに、シンガポール食品庁とシンガポール科学技術研究庁 (A*STAR)が管理するSingapore Food Story R&D Grantから資金提供を受けている。
地元の培養シーフード企業と提携
南洋理工大学は、独自に開発した細胞株のうち3つをシンガポールの培養シーフード企業Umami Meatsにライセンス供与していることを明かしている。
Umami Meatsは、ウナギ、キハダマグロ、タイを開発しており、昨年には培養つみれや培養フィッシュケーキなどのプロトタイプを発表した。最近では、1つの幹細胞から筋肉、脂肪を構築する独自の間葉系幹細胞技術を開発し、特許出願している。
Umami Meatsは先月、コムギ胚芽を活用し、安価な成長因子を開発する日本企業NUProteinと、同社の成長因子生産システムの使用でライセンス契約を締結した。
シンガポールは食品の90%を輸入に依存しているが、2030年までに食料の30%を地元生産でまかなうため、アグテック・フードテックに力をいれている。「30×30計画」の一環として、2020年には世界で初めて培養肉の販売を認め、2021年に世界に先駆けてESCO Asterの生産施設に培養肉の製造を認めた。
南洋理工大学によると、同大学の細胞株を使用した培養シーフード製品は早ければ2024年に販売される見込みだという。
参考記事
Nanyang Polytechnic develops world’s first unagi cell lines and plant-based growth serum
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アイキャッチ画像の出典:南洋理工大学