TurtleTreeは今月、世界初となる精密発酵によるウシラクトフェリンを試食イベントで発表した。「LF+」と名付けられたラクトフェリンは、精密発酵技術により生成されたアニマルフリーな、牛乳に含まれる高価値な乳タンパク質となる。試食イベントはサンフランシスコで開催された。
TurtleTreeは今年第4四半期にも「LF+」の商用化を予定している。
「ピンクゴールド」とも呼ばれるラクトフェリンは、生体防除や健康増進など重要な働きを持つ。母乳や牛乳に含まれる成分だが、牛乳のラクトフェリン濃度はヒトの母乳の5分の1程度に過ぎず(10分の1という報告もある)、入手が制限されている成分とされる。
プレスリリースによると、1キログラムあたり1ドルのホエイ(乳タンパク質)などと比較すると、ラクトフェリンの小売価格は1キログラムあたり700~1500ドルになる。1キログラムの精製ラクトフェリンを得るのに、最大10,000リットルの牛乳、あるいは1週間分の牛乳を生産する50頭近くの牛が必要になる計算となり、生産には多くの資源を有する。
微生物を活用して、動物に依存していた成分を動物に頼らずに生産する精密発酵は、昨今、開発と市場投入が急速に進む分野だ。身近な例では、乳タンパク質を固めてチーズを作るレンネットという酵素の生産に精密発酵技術が20年以上前から使用されている。
精密発酵によりラクトフェリンを生成できるようになれば、現在の生産プロセスから牛を取り除き、持続可能で手頃な価格のラクトフェリンを提供できる可能性がある。
ラクトフェリンは乳児用調整乳やサプリメントに使用されている。アメリカで昨年深刻化した粉ミルクの供給不足は、安全で本物に近い代替粉ミルクを安定供給する必要性を顕在化させた。精密発酵によるラクトフェリン生産は、粉ミルクの供給安定化につながる可能性を秘めている。
TurtleTreeはまた、植物ミルクにはラクトフェリンが存在しないため、精密発酵由来のラクトフェリンは、従来の動物製品と植物製品にある栄養のギャップを埋めるうえでも役立つと考えている。
シンガポール・アメリカを拠点とするTurtleTreeは設立初期の頃、細胞培養による代替母乳・ミルクの開発を目指していたが、2021年頃から精密発酵・細胞培養の2つの市販化戦略を採用していることが明らかになった。細胞農業に従事する代替タンパク質企業の中でも、TurtleTreeのように多様なアプローチを採用している企業は珍しい。
同社が今年後半に精密発酵によるラクトフェリンの上市を実現すれば、乳児用調製粉乳市場では初の快挙となる。
参考記事
関連記事
アイキャッチ画像の出典:TurtleTree