イギリスの分子農業スタートアップMoolec Scienceは先月、動物タンパク質を生産する新たな大豆プラットフォーム「Piggy Sooy」を発表した。
この大豆は一見すると普通の大豆のように見えるが、豚タンパク質を生産するようプログラムされた大豆となる。つまり、大豆が動物タンパク質を作る「生産工場」となっている。
プレスリリースによると、Moolec Scienceの新しい大豆は、大豆種子中のタンパク質が最大26.6%と当初の予想より4倍高い発現レベルを示した。
当初の予想よりも効率的に動物タンパク質が生産されたことから、Moolec Scienceは、分子農業が「動物タンパク質を生産する最も価値ある代替技術の1つ」になると見ている。
Moolec Scienceは、代替肉の味、外観、食感、栄養を改善する機能性成分として、植物を使用していくつかの肉タンパク質を生産している。同社は自社の食品成分が最大6000億ドル規模の従来の食肉加工業界で商用化できると見込んでいる。
Moolec Scienceで最高科学責任者を務めるAmit Dhingra氏は、「Moolecは、大豆など経済的に重要な作物の種子に非常に価値のあるタンパク質を発現させる独自のプラットフォームを開発しました。このプラットフォームは製薬、化粧品、診断薬、食品業界など幅広い業界のさまざまな対象タンパク質に使用できる可能性があります」と述べている。
植物をバイオファクトリーにする分子農業
植物に有用物質の遺伝子を挿入し、植物を栽培して目的成分を生産する方法を分子農業という。目的成分は植物内に蓄積されるため、最終製品を得るには抽出・精製する必要がある。分子農業はワクチンや抗体の生産に使用される確立された技術であり、近年、その開発対象は食用タンパク質にも広がりつつある。
分子農業は、畑など従来の農業システム(インフラ)を利用できること、スケールアップするには栽培面積を拡大すればよいこと、光合成のため主原料が二酸化炭素となり、カーボンニュートラルであることなどさまざまなメリットがある。
分子農業の領域において、Moolec Scienceは先駆的企業とされ、アメリカ、欧州、南米で事業を展開している。食品分野で分子農業に着手するスタートアップは増加しており、2021年の4社から2023年には17社に増えた。開発対象はカゼインなどの乳タンパク質、成長因子、卵タンパク質、ヘムなど多岐にわたる。
今回、動物タンパク質を生産する上で分子農業の効率性の高さが示されたことから、今後さらに注目されていくだろう。
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アイキャッチ画像の出典:Moolec Science