フィンランド企業ソーラーフーズ(Solar Foods)は、二酸化炭素、電気、水素細菌を使い、乳タンパク質を生成するプロジェクトを発表した。
「HYDROCOW」と名付けられたプロジェクトは、欧州イノベーション協議会(EIC)が4年間で550万ユーロ(約8億7000万円)を投じるもので、二酸化炭素、電気、水素細菌から乳タンパク質を生成するための新たな生物学的ツールの開発に産官民で取り組む。ソーラーフーズ、ギンコ・バイオワークスの子会社FGen AGなどが共同でプロジェクトを主導する。
ソーラーフーズは空気タンパク質のソレイン(Solein)で知られる。これは、水素細菌が二酸化炭素と水素を原料に成長、増殖したタンパク質で、バイオマス発酵に分類される。一方、「HYDROCOW」で開発する微生物は特定のタンパク質を作る「ミニ工場」となるため、アプローチは精密発酵となる。
同社はソレインを基盤技術としながら、長年にわたって新しい食品微生物の研究を進め、これらの微生物を改変する工学的手法を構築した。
CO2を炭素源に乳タンパク質の生成へ
「HYDROCOW」の目標は、電気分解により水から生成される水素、二酸化炭素を、乳タンパク質の1種、β-ラクトグロブリンに変換する微生物を設計することだ。つまり、二酸化炭素、電気、微生物を使って牛乳の生産プロセスから牛を取り除くことを目指している。
ソーラーフーズによると、この方法によって乳タンパク質が生産された例はこれまでにないという。
精密発酵は、主に遺伝子組換え微生物(非遺伝子組み換え微生物のケースもある)を「ミニ工場」として目的成分を生成する方法だ。代表企業のパーフェクトデイが開発した乳タンパク質(β-ラクトグロブリン)使用の製品は、アメリカ、シンガポール、香港で販売されている。
しかし、これまでの精密発酵では、多くのソリューションが農業由来の砂糖や高エネルギーな炭素源を原料とする従属栄養微生物に依存していると同社は指摘する。ソーラーフーズは、農業由来の原料を使用する従属栄養微生物から始めるのではなく、水素細菌が二酸化炭素、水素を栄養源に乳タンパク質を分泌できるように改変している。
つまり、同社のアプローチは、生産プロセスから「農業」を取り除くものとなる。
タンパク質分泌能力を備えた水素細菌の開発
環境負荷を軽減する効果が期待されるにも関わらず、同様の試みは少ない。
その理由として、水素細菌は通常、タンパク質を分泌する能力を備えていないからだという。自然界では、水素細菌は成長を維持するために糖質分解酵素を分泌する必要がないため、細胞外膜を介したタンパク質輸送をほとんど必要としない。
糖を好む微生物とは対照的に、水素を利用する微生物のタンパク質分泌機構には、多くの「準備」が必要だと同社は述べている。今回発表された「HYDROCOW」はまさに、乳タンパク質を生成できる水素細菌の開発を目指している。
このプロジェクトが成功すれば、乳タンパク質を生産する微生物だけでなく、将来的には他のタンパク質を生産するよう改良可能なプラットフォームが得られると同社は期待している。同社は、乳タンパク質以外の食用タンパク質、さらには抗体など医薬品も視野にいれている。
二酸化炭素から脂肪を作る事例も
水素細菌による乳タンパク質生成に近い取り組みとしては、Circleが取り組んでいる二酸化炭素と水素を活用した脂肪の開発を挙げられる。Circleは自社技術をガス発酵と呼んでいる。
今後は従来の微生物に改良を加えて、さまざまな食品成分を開発する試みが増えていくと予想される。
参考記事
Milk from carbon dioxide and electricity
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