精密発酵でカゼインを開発する米New Cultureが、世界で初めて精密発酵カゼインについてGRAS自己認証ステータスを発表した。
これは、New Cultureが開発したアニマルフリーなカゼインを、他の食品成分と同じようにアメリカで使用、販売、消費できることを意味する。
今年後半には、ロサンゼルスのレストランで精密発酵カゼインを使用したモッツアレラチーズが提供される予定だ。New Cultureは次のステップとして、FDAへ通知し、GRAS認証の取得も目指すとしている。
【世界初】New Cultureが精密発酵カゼインでGRAS自己認証を発表
精密発酵は、遺伝子組み換え微生物を生産工場として特定成分を生成する技術をいう。
これにより、資源集約型の生産から、広大な土地・大量の水を使用しない効率的な生産への移行が可能になり、環境負荷と高まるタンパク質需要に対応できる生産技術として注目されている。
精密発酵は、ジェネンテックのヒトインスリン開発に始まり、チーズの製造で使用されるキモシンなど、身近な成分開発に使用されている40年以上の歴史ある技術だ(食品用途でのブレイクスルー発祥地は日本であり、故別府輝彦東京大学名誉教授の功績による)。
精密発酵は2019年のRethink Xのレポート発行により、特に注目を集めるようになる。
これまでに乳タンパク質の1つであるホエイ、卵白タンパク質、甘味タンパク質、ヘム(大豆レグヘモグロビンやミオグロビン)などの成分がアメリカを中心に認可されている(詳細と出典はこちらの記事にまとめてある)。
ホエイタンパク質で認可を取得する企業が増える一方、乳タンパク質の8割を占め、チーズの伸びに欠かせないとされるカゼインについては、認可を取得する企業はなかった。
今回の発表により、New Cultureが精密発酵カゼインの商用化を世界で最初に実現する可能性が高まった。
ホエイよりも開発が難しいカゼイン
精密発酵によるカゼインがホエイより開発に時間を要したことには理由がある。
カゼインはその独自構造ゆえに、ホエイよりも精密発酵で開発するのが難しいと言われてきた。
牛乳中でカゼインは、安定したコロイド状態を維持して、巨大なミセル(カゼインミセル)を形成している。カゼインはαS1、αS2、β、κの4種類から構成されるが、カゼインミセルの形成では、κ-カゼインが他のカゼインと相互作用し、安定化に寄与している。
こうした球状のミセルを形成するカゼインタンパク質の構造ゆえに、三次元構造を形成するタンパク質を微生物に生産させるのは難しいと言われてきた。先日カナダで認可を取得したイスラエルのRemilkもカゼインを開発しているが、同社共同創業者のAviv Wolf氏はその難しさに過去に言及している。
New Cultureは特許明細書の中で、β-カゼインを使用しないカゼインミセル生成にも言及しているため、GRAS自己認証を宣言したカゼインはすべてのタイプを含んでいない可能性もある。この点については、Wolf氏も、同等の機能性の再現には必ずしもすべてのカゼインを使用する必要性がないことに過去に言及している。
今年後半にロサンゼルスのレストランで提供へ
New Cultureは昨年8月、1回の稼働で25,000枚のピザに相当するチーズを製造できる規模まで発酵プロセスのスケールアップに成功したことを発表した。
同社は当時、3年以内に精密発酵由来のモッツアレラチーズが従来品と同等価格になり、年間1,400万枚以上のピザ用チーズに相当するカゼインを生産できるようになると予想していた。
技術を商用化できるルートが今回開かれたこと、Liberation LabsのようなCDMOが近年増えていることから、こうした見通しの実現に期待がさらに集まりそうだ。
New Cultureはチーズ、ヨーグルトなどの最終製品を想定しているが、最初の製品はモッツアレラチーズとなる。ロサンゼルスにあるNancy Silverton氏のレストラン「Pizzeria Mozza」での提供に向けて、生産能力の拡大に引き続き取り組んでいくという。今年後半に同レストランで販売を予定しており、上市の動向に注目だ。
参考記事
New Culture Announces Self-GRAS for Animal-free Casein, World’s First Cleared for Commercial Sale
“GRAS” for New Culture Animal-free Casein
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アイキャッチ画像の出典:New Culture