シンガポールのスタートアップ企業tHEMEatは、代替肉を本物の動物肉に近づけるため、廃棄野菜など食品廃棄物から植物肉の風味を改善させる植物性ヘム「VEME」を開発している。
tHEMEatの「VEME」は、卵の殻や野菜など、食品廃棄物から抽出したもので、油、糖、アミノ酸と反応すると肉のような風味分子を形成する。風味だけでなく、肉らしい色をもたらす着色料の役割も持つ。
「VEME」は、食品廃棄物・植物肉の風味という2つの課題に対応したソリューションであり、生産プロセスでは遺伝子組換え技術は使用していない。
廃棄野菜からビーガンヘムを開発するtHEMEat
DBSの報道によると、tHEMEatは、シンガポール国立大学で金属を含有する薬剤を使用したがんワクチン開発に従事していたMax Tham博士により設立された。Tham博士は、がんワクチンの研究で得た知見を、同じく金属を含有するヘム成分の研究に応用した。
「VEME」を食品に添加すると、メイラード反応など、調理中に起こる化学反応が強化され、肉の味・風味を持つ分子が生成される。動物肉が調理されると赤色から茶色へ変化するように、調理プロセスも似ているという。
Tham博士自身、「VEME」を使用した代替牛肉を試したときに、その牛肉のような風味に驚いた経験をDBSのインタビューで語っている。
卵殻、植物から作るヘム
同社のコア技術は、シンガポール国立大学が出願中の特許(WO2023/101604A2)にある。
この特許明細書では、植物、藻類、細菌、シアノバクテリア、卵殻などからヘムの前駆体となるプロトポルフィリンIXを抽出、精製したものを、鉄と反応させて錯体であるヘムを生成しているが、tHEMEatは卵殻、植物からヘムを生成している。
tHEMEatは粉末タイプの「VEME Catalyst」と、フレーバー・着色料となる液体タイプの「VENE Flavour」の2製品でB2B供給を目指している。
ヘムといえば精密発酵で生成したインポッシブル・フーズが有名だが、ヘムをB2B供給せず、自社ブランド製品のみに使用する同社と異なり、tHEMEatは成分のB2B展開、そして植物肉だけでなく、魚、ウナギ、羊肉など幅広い用途を想定している。
廃棄野菜などの原料は、シンガポールのスーパーマーケットチェーンFairPriceから調達している。
インポッシブル・フーズ、Paleoなど、ヘム開発では精密発酵技術を使用する企業が多いなか、食品廃棄物をアップサイクルするtHEMEatのアプローチは、複数の課題に対処する有望なソリューションとして期待されるだろう。
参考記事
Unlocking the flavours of plant-based foods with…food waste? Max Tham shows you how
https://www.themeatsg.com/products-services
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アイキャッチ画像の出典:tHEMEat