インタビュー

ブラジルの精密発酵企業Future Cow、最初の乳タンパク質試作品を製造

 

ブラジルのスタートアップ企業Future Cow Technologiesは昨年11月、精密発酵により最初の乳タンパク質試作品を製造した

Future Cowは、Leonardo Vieira氏Rosana Goldbeck氏によって2023年に設立された。南米の数少ない精密発酵企業であり、Foovoの認識ではブラジルで確認されている精密発酵企業3社のうちの1社となる。

Future CowはAntlerのプログラムで最初の70万レアル(約2040万円)の資金を獲得。その後、Big Idea VenturesFapespから200万レアル(約5800万円)の出資を受けている。

Future Cowが最初の乳タンパク質試作品を製造

Leonardo Vieira氏 出典:Future Cow LinkedIn

同社は、牛の遺伝子を挿入した微生物を使用した精密発酵により、牛に頼ることなく分子的に同一の乳タンパク質を開発している。

共同創業者のVieira氏は以前、Foovoのインタビューに対し、ホエイ、カゼインなど複数のタンパク質開発に着手しているが、最初に生成した試作品が何かについては述べなかった。

2023年12月の時点でFuture Cowは15Lのバイオリアクターを使用しており、次のステップとして、200L、2,000L、5,000Lへスケールアップを進めるとしていた。食品メーカーに乳タンパク質をB2Bで供給することを目指している。

BizNewsの報道によると、Future Cowは、競合他社が使用するブドウ糖の代わりに農業廃棄物を微生物に与えることを可能にする技術を開発した。これにより製造コストを大幅に削減できたとしている。現在の試算によると、100㎡のスペースで1400頭分の牛と同等の生産量を実現できる見込みだという

同社は精密発酵で乳タンパク質を開発することで、倫理的で、乳製品に伴う環境負荷を低減した代替ソリューションを提示できると考えている

ブラジルの新規食品規制を巡る最近の動き

出典:RDC 839/2023

南米で販売認可を取得した精密発酵企業はまだない。Vieira氏はブラジルを含め、南米を第一の市場と考えているとFoovoに述べた。同社がブラジルで精密発酵による乳タンパク質を販売するには、ブラジル国家衛生監督庁ANVISA)の承認を得る必要がある。

ANVISAは、2023年12月に新規食品および新規食品原料の安全性証明と使用認可に関する規則の改正案「RDC 839/2023」を発表、同規則は2024年3月16日に施行された。これにより、精密発酵や培養肉企業はANVISAに対し承認申請を行えるようになった。

RDC 839/2023」の中で、新規食品および新規食品原料は、「植物、動物、鉱物、微生物、菌類、藻類から、または合成的に得られた、ブラジルで安全な消費歴がないもの」と定義された。さらに詳細な内容はこちらに言及されている。

この改正により、企業が特定の食品や原料が新規食品に分類されるかを事前に相談できる行政手続きが設けられ、回答はANVISAのサイトに公開されることになった。

また、新規食品および新規食品原料の安全性評価がANVISAのサイトで公開されることも盛り込まれた。ANVISAが評価した新規食品や新規原材料はこのポータルサイトで確認できる。

こうしたブラジル当局の法整備を受けて、ブラジルで今後、精密発酵、培養肉など細胞農業企業の設立が増えていくと予想される。

 

参考記事

Nem de vaca nem de aveia: startup brasileira faz o seu primeiro ‘leite’ em um tanque de fermentação

Brazil’s First Precision Fermentation Startup Future Cow Prepares to Scale Up Production of Animal-Free Milk

Leonardo Vieira氏への簡易インタビューは2023年11月上旬に実施

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Future Cow

 

関連記事

  1. 英培養肉企業Higher Steaksが約43億円を調達、社名を…
  2. 米MycoTechnologyが約105億円を調達、菌糸体発酵プ…
  3. 培養ロブスターを開発する米Cultured Decadenceが…
  4. 代替脂肪としてのオレオゲルの食品応用における課題と認可の事例|F…
  5. AIエンジンで代替タンパク質を開発するThe Live Gree…
  6. 植物性3Dプリント肉を開発するRedefine Meatが約15…
  7. インテグリカルチャー、培養肉用資材のB2Bマーケットプレイス「勝…
  8. Remilk、イスラエルで精密発酵タンパク質の認可取得が間近

おすすめ記事

培養魚のWanda Fishがタフツ大学と独占的ライセンス契約を締結

イスラエルの培養魚スタートアップWanda Fishは、培養魚の開発でタフツ大学…

オーストラリアのCauldron Fermが約9.3億円を調達、「より小さく、よりスマートな」アジア最大の精密発酵施設ネットワーク構築へ

オーストラリアに新たに設立された精密発酵スタートアップのCauldron Fer…

「ニッポンの魚ビジネスEXPO 2025」2月18日開催|業界の枠を超え、魚ビジネスの可能性を広げる

本記事は、Foovoがメディアスポンサーを務める「魚ビジネスEXPO 2025」の紹介記事です。…

ドイツのAlife Foodsがアニマルフリー培養培地を用いて培養シュニッツェルを開発

ドイツのフードテックスタートアップAlife Foodsは、欧州のスパイス大手F…

オランダ大手スーパー、植物由来食品44%の販売率を報告|売り場戦略を考察する【現地レポート】

オランダの大手のスーパーマーケットAlbert Heijn(アルバート・ハイン)…

SimpliiGoodのスピルリナ由来のビーガンスモークサーモン、6ヶ月以内に小売店に導入へ

2025年4月30日更新イスラエルの微細藻類スタートアップSimpliigoodは22日、ス…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(05/08 15:05時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(05/09 00:56時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(05/09 04:56時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(05/08 21:05時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(05/08 13:11時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(05/09 00:11時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP