オランダ、ワーゲニンゲンを拠点とする作物育種企業KeyGeneが主導する研究チームは、バナナの2大病害であるFusarium Tropical Race 4(TR4)とBlack Sigatoka(黒シガトカ病)に対する抵抗性を持つ新たなバナナ品種「Yelloway One」を開発した。
「Yelloway One」は、遺伝子組換えを行わない交配による三倍体バナナ(種なしバナナ)であり、開発には3年間を要した。
この研究プロジェクト「Yelloway」に参加したワーゲニンゲン大学のGert Kema教授は、「バナナの栽培における大きなブレイクスルー」だと評価。
従来の育種法でも病害抵抗性のバナナを開発できることは分かっていたが、最新の遺伝学的ツールを活用することで、他の方法よりもはるかに速く品種開発が可能であることを実証したと強調している。
バナナの2大病害に抵抗性を持つ新品種「Yelloway One」
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TR4にかかったバナナの木 出典: Tony Pattison氏, Department of Agriculture and Fisheries
TR4は、植物を枯死させる菌類(Fusarium oxysporum f. sp. cutense)によるもので、オーストラリアで発見された。バナナの根から侵入し、一度発生すると土壌中に長期間残り、化学的な防除が困難とされている。感染したバナナや土壌の移動によって拡大しやすく、農園全体を壊滅させる恐れがある。
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黒シガトカ病にかかったバナナの木 出典:Genetic Characteristics and Metabolic Interactions between Pseudocercospora fijiensis and Banana: Progress toward Controlling Black Sigatoka
黒シガトカ病はPseudocercospora fijiensisという菌類が原因で、葉に縞模様の病斑を生じさせ、光合成を阻害し、収量を大幅に低下させる病害である。
この2つの病害は世界のバナナ農業に壊滅的な影響を与えており、特にTR4は、広く輸出されるキャベンディッシュ種にとって長年の脅威とされてきた。これまで抵抗性品種がなく、農薬や防除策にも限界があったため、農家にとって大きな課題となっていた。
持続可能なバナナ生産への道
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出典:Yelloway
今回開発された「Yelloway One」は、これらの病害への抵抗性を持ち、持続可能なバナナ生産の実現に貢献する可能性がある。
現在「Yelloway One」は試作段階であり、オランダの温室で栽培されている。今後、TR4や黒シガトカ病による被害が深刻なフィリピンとインドネシアへ送られる予定だ。
圃場(ほじょう)試験で、「Yelloway One」が自然環境下でどの程度、性能を発揮するかが検証される。これらの試験は、深刻な被害を受けている地域の農家にとって、Yelloway Oneが実用的な解決策となり得るかを評価する上で、重要な試験となる。
今回の研究成果は、大手バナナ生産者のChiquita、KeyGene、MusaRadix、ワーゲニンゲン大学の協力によるもの。研究チームは、伝統的な交配技術と最新のDNA 分析技術を組み合わせ、抵抗性を持つバナナ品種の開発プロセスを加速した。これにより、耐病性などの望ましい特性を持つ新しい品種を、より迅速かつ効率的に選択できるようになった。
Kema教授は、Chiquita以外のバナナ生産者も「Yelloway One」を入手できるようにしたいと述べている。
「Yelloway One」が実用化されれば、長年農家を苦しめてきた2大病害に対する有効な解決策となり、世界のバナナ産業にとって救世主となる可能性がある。
参考記事
Breakthrough in the fight against devastating banana diseases: first resistant plant developed
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アイキャッチ画像の出典:ワーゲニンゲン大学