3Dプリンター

バイオ3Dプリンターで植物性代替サーモンを開発するLegendary Vish

 

このニュースのポイント

 

●オーストリアのLegendary Vishがバイオ3Dプリンターで代替サーモンを開発

2022年までの欧州市場進出を目指す

本物のサーモンと同じ栄養価を追求

Felix社のバイオ3Dプリンターを使用

●2030年までに欧州サケ市場で5%のシェア獲得を目指す

 

 

バイオ3Dプリンターを使って代替サーモン開発に取り組むことを決めた学生がいる。

Robin Simsa、Theresa Rothenbücher、Hakan Gürbüzだ。博士課程で学んでいた3人が作りだしたのは、見た目が本物そっくりなサーモン。

もともと医療用3Dプリンティングの開発に取り組んでいた3人はあるとき、プロセスを少しいじると、植物性タンパク質を構造化された形状に3Dプリントできることに気づいた。さらに、サーモンのフィレを作る企業が、植物ベースの代替食産業にいないという市場の穴にも気づく。

こうしてLegendary Vishを立ち上げた。

左から製品開発担当で組織工学のバックグランドを持つTheresa Rothenbücher、バイオテクノロジー専門でCEOのRobin Simsa、3DプリンターのエキスパートHakan Gürbüz

創業メンバーでCEOのSimsaによると、代替魚にはこれまでの養殖業に終止符を打てる可能性がある。

養殖では、養殖魚の過密な飼育環境に伴う病気の予防、成長促進を目的として抗生物質が使用される。こうした抗生物質が残留した食品を人が摂取すると、体内の腸内環境に影響がおよび、耐性菌(抗生物質が効かなくなった細菌)を生み出す可能性がある。

つまり、魚の成長促進に抗生物質を用いると、魚の体内に耐性菌が生じて病気を予防できなくなるだけでなく、人が使う抗生物質が効かなくなるという影響も生じることになる

さらに、魚に残留するマイクロプラスチック、水銀による影響や、サケの過剰漁獲問題も見過ごせない。

こうした養殖魚に不随する問題を一挙に解決できるのが、代替魚だ。

本物と見分けがつかない3Dプリンター製サーモン

どちらが3Dプリンター製か見分けられるだろうか?答えは、左が3Dプリンターで作ったもの、右は本物。 出典:Legendary Vish

Legendary Vishは代替サーモンの主成分に、キノコ・えんどう豆のタンパク質、でんぷん、藻類のほか、オメガ3脂肪酸を含むアボカドなどを使う

追求するのは魚に匹敵する栄養価。オメガ3脂肪酸を含むさまざまな原料を組み合わせて、最適な組み合わせを模索しているところだ。

Legendary Vishのサーモンは、肉組織の赤色と結合組織の白色が本物のように区別されている

本物そっくりの外観は、バイオ3DプリンターFELIXの異なるプリントヘッドから、異なる植物ベース材料(これを「フードインク」という)を押し出すことで再現している。FELIXのプリントヘッドは2つあり、粘性の異なる「インク」を扱えるのが特徴だ。

Simsaによると、風味や香りはかなり正確で、現在は歯ごたえの改善に取り組んでいるという。

もう1つの課題となる量産化については、創業メンバーの1人Hakan Gürbüzが担当する。

GürbüzはFelix社で3年勤務し、自身もバイオ3Dプリンター2機種を開発した経験のある、3Dプリンターのスペシャリスト。Felix社での経験をもとに量産化に取り組む。

商用化の目標は2022年

出典:Legendary Vish

Legendary Vishは2022年までの商用化を目指している。

まず狙うのは、ドイツ、オーストリア、スイスだ。これらの国では植物ベースの代替肉がすでに広く受け入れられており、さらに成長を続けているという。

次に目指すのが北欧。水産物の消費量の多い北欧に進出した後は、ヨーロッパのほかの国への展開を目指す。

Legendary Vishのほかにも代替魚に取り組むスタートアップはいるが、3Dプリンターを使う企業は多くない。

代表的な代替魚プレーヤーとしては、BlueNaluWild TypeShiok MeatsFinless Foodsがいるが、いずれも細胞から本物の魚肉を開発している。いわゆる培養肉といわれる領域だ。

ヨーロッパではHookedが大豆から代替ツナを開発、資金調達を実施し、2022年までに北欧市場への参入を目指している

Legendary Vishが無視できない競合は、同じく魚の切り身に取り組むアメリカ発のKuleanaだろう。Kuleanaはマグロの切り身に続いて、代替サーモンの開発にも取り組むことを明らかにしている。9月には非公開だが資金調達を実施、年内に米国のレストランと提携して商品化を目指している。

Legendary Vishはまだ出資を受けておらず、交渉中だという。2021年に代替サーモンの試食を小規模に始めたいと考えている。

バイオテクノロジー、組織工学、3Dプリンターに長けた3名のエキスパートが切り開く未来に期待したい。

 

 

参考記事

3D printed fish: Plant-based salmon with ‘complex structure’ under development for EU market

Legendary Vish Creates Plant-based Salmon through 3D Bioprinting

抗生物質の汎用と抗生物質不使用食品の展望

「薬剤耐性菌」の食品健康影響評価について

アイキャッチ画像の出典:Legendary Vish

 

関連記事

  1. 蜜蜂を使わずにハチミツを作る米MeliBioがプレシードで約94…
  2. 培養肉シンポジウム「CMS Japan」初開催|細胞農業スタート…
  3. 代替エビを開発するNew Wave Foodsが約18億円を調達…
  4. 植物の葉から食用タンパク質を開発するLeaft Foodsが約1…
  5. オランダのモサミート、培養牛脂でEU初の新規食品申請を提出
  6. Jellatechが約5億円のシード資金を調達、細胞由来コラーゲ…
  7. Zero Cow Factoryが約5.2億円を調達|カゼインタ…
  8. Ÿnsectのミールワームタンパク質、アメリカでペットフード製品…

おすすめ記事

Imagindairyがイスラエルで精密発酵ホエイの認可を取得 - 販売を続ける大手企業の状況も紹介

2024年12月10日修正:後半のスライドを一部修正しました。精密発酵で…

米培養肉企業New Age Eatsが閉鎖を発表「投資を呼び込めなかった」

アメリカの培養肉企業New Age Eats(旧称New Age Meats)は…

イスラエルのDairyX、精密発酵技術で自己組織化するカゼインミセルの生産方法を開発

2022年に設立されたイスラエルのスタートアップ企業DairyXは今月、精密発酵…

鶏を使わずに卵白タンパク質を開発するフィンランド企業Onego Bioが約12億円のシード資金を調達

精密発酵により卵白タンパク質を開発するフィンランド企業Onego Bioはシード…

米Jellatech、細胞培養によりヒトコラーゲンの開発に成功

細胞培養によるコラーゲンを開発する米Jellatechは今月、独自の細胞株から、…

チョコレート会社創業者が立ち上げたNukoko、そら豆由来のカカオフリーチョコレートを来年上市へ【創業者インタビュー】

左から共同創業者のKit Tomlinson氏、David E Salt教授、Ross Newton…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

最新記事

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(09/11 15:52時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(09/12 02:14時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(09/12 05:55時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(09/11 21:52時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,980円(09/11 13:50時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(09/12 01:08時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP