代替プロテイン

菌糸体から代替肉を作るAtlast Foodが約43億円を調達

 

菌糸体から代替肉を開発するAtlast FoodがシリーズAで4000万ドル(約43億円)を調達したことを発表した。

今回のラウンドには、アメリカの食肉、乳製品メーカーのほか、スーパーマーケットチェーンのホールフーズも参加している。

10日でできる菌糸体由来の代替タンパク質

出典:Atlast Food

Atlast Foodは菌糸体を使って、代替肉を開発するニューヨークを拠点とするスタートアップ。

菌糸体のパイオニアEcovativeが代替肉事業に参入するために2019年に創設した。

菌糸体とはキノコの地中にある「根」に相当するもので、糸状の形をしていることから菌糸体と呼ばれる。

現在、市場で入手できる代替肉にはベーコン、チキン、ステーキなどさまざまなものがある。

「ホールカット」と称するものもあるが、その多くはすりつぶしたものや、押し出したものをベースとしており、質感、風味、本物を食べている感覚を再現できる代替肉は少ないとAtlast Foodは考えている

そこで同社は、菌糸体を使って、複雑な加工なしに肉全体の構造を再現した代替肉の提供を目指している。

出典:Atlast Food

製法はまず、栄養成分豊富な培地を入れたトレーに菌糸体の胞子を撒く。

次に、各トレーの成長条件がすべて同等になるように、トレーを垂直に積み重ねる。こうして発酵させ、数日後に収穫される菌糸体は、代替肉の原料としてすぐに使うことができるという。

菌糸体は、胞子が発芽して成長して糸状になり、分岐をつづけ多数の菌糸の集まりとなる。

Atlast Foodによると、菌糸体が胞子から厚い板状になるまで、全行程に要する時間はわずか約10日

物性代替肉と異なり、原料となる大豆やえんどう豆を栽培するための広大な土地は不要だ。室内農場のように施設内で垂直に積み重ねて菌糸体を発酵させるため、土地利用の点で効率が良い

同社の菌糸体ベースの代替肉が肉のような質感があるのは、菌糸体繊維が筋肉組織のような網目状に成長するからだという。

アメリカ最大となる菌糸体工場を建設中

出典:Atlast Food

Atlast Foodはすでに、MyEatsのブランドで菌糸体由来の代替肉ベーコンMyBaconを販売している。

これは同社初の商品であり、6種類の植物性原料を使用している。コレステロールは含まず、ベーコン2枚でタンパク質を4g含む

MyBaconは現在、ニューヨーク州オールバニにある食料品店Honest Weight Food Co-opで販売されているが、今後は取扱い店舗を増やす構えだ。

Atlast Foodは今回調達した資金で、技術、生産、チームを拡大する。

同社は親会社となるEcovativeと協業し、Ecovativeの生産プラットフォームを活用して、代替肉を提供するためにアメリカ最大となる気菌糸体工場を建設している。

注目も投資も集まる微生物発酵

Atlast Foodのように菌類である菌糸体を使って代替タンパク質をつくる試みは、大まかに「微生物発酵」というカテゴリーに分類される。

微生物発酵はさらに、バイオマス発酵精密発酵に大きく分類される。

Atlast Foodのように発酵で成長させたものを主要成分として使うものがバイオマス発酵となる。

出典:Atlast Food

バイオマス発酵のなかでも、菌糸体を原料とする企業には、Meati Foodsがいる。同社は菌糸体を使って切り身だけでなく、ステーキ肉を開発している。

菌糸体を使う代替肉は、菌糸体がもつ天然の繊維構造、成長の早さ、土地利用率の点で、大豆、えんどう豆などを原料とする植物肉よりも将来性が見込める。

微生物には菌類、細菌、藻類などが含まれるが、こうしたものをまとめた「微生物」による発酵タンパク質に集まる投資額は増加する一方で、2020年の夏には投資額は過去最高額に達した

微生物発酵に取り組む企業は急増している 出典:GFI

微生物発酵によって作られる代替タンパク質は、肉にとどまらず、アイスクリームミルクチーズなどの乳製品に加え、着色料ハチミツ脂肪など広範囲に及ぶ。

米食料品スーパーチェーン店のホールフーズも出資

Atlast Foodはベーコン以外にどのような代替肉を開発予定か、詳細は公開していないが、菌糸体由来のタンパク質でフィレミニヨン、チキンブレスト、魚も開発できるとしている。

同社の菌糸体ベーコンが最初に販売されたのは昨年11月。

現在、商業規模で代替ベーコンを提供するために大手ブランドと交渉中だという。

出典:Atlast Food

今回のラウンドはViking Global Investorsが主導し、40 North、AiiM Partners、Senator Investment Group、Stray Dog Capital、Footprint Coalition、アメリカの食肉メーカーApplegate、アメリカの乳製品メーカーStonyfield、アメリカの食料品スーパーマーケット・ホールフーズが参加した。

同社のこれまでの調達額は4700万ドル(約51億円)となる。

ラウンドの参加者に食肉メーカー、乳製品メーカー、スーパーマーケット企業がいることから、Atlast Foodが現在「交渉中」だという「大手ブランド」がこれらの企業である可能性もある。

もしかしたら、Atlast Foodの菌糸体ベーコンがホールフーズで販売されるのはそんなに先のことではないかもしれない。

 

参考記事

Atlast Food Co. Secures $40M Series A Round to Expand Whole Cut Plant-Based Meat Analogues

Atlast Raises $40M to Expand Production of Whole Cut Plant-Based Meat

Fermentation: An Introduction to a Pillar of the Alternative Protein Industry

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Atlast Food

 

関連記事

  1. 精密発酵で卵白タンパク質を開発するOnego Bio、米国進出に…
  2. ユニリーバ傘下の代替肉ブランドThe Vegetarian Bu…
  3. スロベニア企業Juicy Marblesは世界初の植物性フィレミ…
  4. イスラエル農務省が設立した培養ティラピアを開発する培養魚企業E-…
  5. 米イート・ジャスト、年内または2022年に30億ドルのIPOを目…
  6. 分子農業パイオニアの英Moolec Science、SPAC経由…
  7. 農林水産省が培養肉、CO2タンパク質生産、泡盛粕のアップサイクル…
  8. Next Prime Food発足: 大企業とスタートアップの“…

おすすめ記事

ホールカットの植物サーモンを開発するOshi、年内にアメリカで発売へ

ホールカットの植物由来サーモンを開発するイスラエル企業Plantishは今月、今…

細胞農業で脱カカオを進めるフィンランドのチョコレートメーカーFazer

フィンランドのチョコレートメーカーFazerは、持続可能なカカオ生産に向けて細胞…

カカオフリーのチョコレートを開発する英WNWNが約7.6億円を調達、年内に小売販売へ

カカオフリーのチョコレートを開発する英WNWN Food Labsは先月、シリー…

Pureture、代替カゼイン使用のプロテインドリンクを米国で年内上市へ──姉妹企業Armored Freshは代替コーヒー「Barley Brew」を発表

クリーンラベルの代替カゼインを開発するPuretureが、初の製品上市に向けて動…

目の前で焼かれる培養肉、その香りはまさに牛肉だった|関西万博レポート

写真提供:吉田美和氏 本記事は、エトワール国際知的財産事務所の弁理士・吉田美和氏による寄…

3Dプリンターを活用する上海企業CellXが培養豚肉のサンプルを発表

3Dプリンターを活用して培養肉を開発する中国の培養肉企業CellXが培養豚肉のサ…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

精密発酵ミニレポート発売のお知らせ

最新記事

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(11/02 16:12時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(11/02 02:47時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(11/02 06:19時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(11/02 22:12時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(11/02 14:12時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(11/02 01:30時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP