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インポッシブルフーズがオーストラリア・ニュージーランド進出へ向け準備

 

代表的な米代替肉企業インポッシブルフーズが1年以内に株式上場すると言われるなか、同社は既存産業をさらに「破壊」するため、オーストラリアとニュージーランド市場への参入に向けた準備を進めている。

これは、オーストリア・ニュージーランドの食品当局がインポッシブルフーズのコア成分「ヘム」の使用を認めたことに続くニュースとなる。

オーストラリア・ニュージーランド当局が「ヘム」の使用を承認

出典:インポッシブルフーズ

昨年の12月、オーストラリア、ニュージーランドの食品当局は、インポッシブルフーズの肉のおいしさの主役をなすコア成分「ヘム」の使用を承認した

「ヘム」はインポッシブルフーズの肉のおいしさに不可欠なもので、大豆レグヘモグロビンから採取される。

同社は「ヘム」を大量生産するために、遺伝子改変した酵母を使用している。

これは精密発酵という技術で、酵母に大豆レグヘモグロビンを作る遺伝子を組み込み、酵母を発酵させて「ヘム」を作らせる。つまり、酵母は「生産工場」としての役割を果たす。

カットすると赤色に見えるのがレグヘモグロビン 出典:http://queensigem.ca

「ヘム」を取り出した後、酵母は最終産物から取り除かれるが、製造工程で遺伝子改変された酵母を使用するため、GMO(遺伝子組換え)食品の販売に対する規制が厳しい国では参入が難しいという問題がある。

オーストラリア、ニュージーランドの食品当局は、同社の「ヘム」は消費者の健康・安全面にリスクがないと結論づけた。さらに、「ヘム」を使った同社の植物肉が、動物肉の消費を減らす新たな選択肢になるともしている。

Vegconomistの報道によると、今月上旬の時点で、インポッシブルフーズはオーストラリア・ニュージーランドでゼネラルマネージャー、上級営業員、戦略マネージャー、上級マーケティングマネージャーを募集していた。

Linkedinを見る限り、現在はゼネラルマネージャーをのぞき、採用が完了しているとみられる。

二国で採用活動を実施していることから、同社がこれらの国で代替肉の発売に向けて準備をしていることがうかがえる。

目標は畜産業を2035年までに廃止すること

出典:インポッシブルフーズ

公式サイトによると、インポッシブルフーズの代替肉は畜産肉と比較して、使用する水、土地がそれぞれ87%、96%少なく、排出される温室効果ガスも89%少ない。

同社の代替肉はアメリカで登場後、これまでに香港、シンガポール、カナダで販売されている。

香港・シンガポールでは昨年の10月、小売・外食産業に展開を拡大した。これらの国のスターバックスでも代替肉が導入されている。

直近ではカナダのバーガーキングのパテとしてインポッシブル・ワッパーが採用された。

こうした動きのほとんどはこの1年で起きており、欧州、中国への参入が未完なものの、着実に販売エリアを広げている。

オーストラリアの代替肉市場は2030年までに30億ドル規模になるとされる。

この1年で植物肉の売上は46%増えており、インポッシブルフーズは絶妙のタイミングでオーストラリアに参入することとなる。

インポッシブルフーズの主力製品は植物性代替パテだが、同社は今後数年かけて代替魚代替ミルクを開発したいと考えていることを明かしている。

左は他社の代替ミルク。コーヒーと混ざらない。右のインポッシブルミルク試作品は混ざっている。出典:CNN

昨年10月には開発中のImpossible Milkを発表した。同社創業者のパット・ブラウン氏は従来の食肉産業を「地球上で最も破壊的な産業」とし、2035年までに動物を使用する畜産の廃止を目指している。

2020年にはシリーズF、Gラウンドで合わせて7億ドル(約755億円)という巨額の資金調達を実施した。これは2020年に出資を受けた植物性代替肉企業の調達額では最大規模となる。

インポッシブルフーズvsビヨンドミート

インポッシブルフーズの株式上場が予想され、新規市場への参入準備も進む一方で、競合ビヨンドミートも歩みを止める気配はない。

今月には中国の現地工場を開設欧州では小売の展開規模を一挙に拡大した。

「ヘム」に対する規制のために、インポッシブルフーズは欧州、中国へはまだ参入していないがLinkedinでは今月に中国上海の求人広告を出していることから、中国市場参入に向けた準備をしていることがうかがえる。

出典:インポッシブルフーズ

こうしたなか見過ごせないのが、植物原料に頼る植物肉の欠点を補う周辺技術のイノベーションが進んでいることだろう。

インポッシブルフーズの肉らしさのコア成分「ヘム」に代わる新規ヘムを開発する企業もあれば、植物肉をターゲットに培養脂肪を開発する企業もいる。

インポッシブルフーズは、生産コストが高額で、利益につながる努力ではないからという理由で「培養肉市場に参入することはない」と昨年公言している。

これが、培養脂肪を添加する形での協業の可能性も全くないのかどうかは定かではない。

競合のビヨンドミートが「新規ヘム」や培養脂肪を既存の植物肉に組み込む可能性も考えられ、代替肉市場の今後の行方が注目される。

参考記事

Impossible Foods Signals Australia & New Zealand Market Entry Amid IPO Buzz

Impossible Foods Ready to Launch and Disrupt in Australia Ahead of $10 Billion IPO

人工肉の米インポッシブル・フーズ、株式上場に向け協議=関係筋

 

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アイキャッチ画像の出典:インポッシブルフーズ

 

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