代替プロテイン

牛を使わずにモッツアレラチーズを開発する米New Cultureが約28億円を調達

 

アニマルフリーなモッツアレラチーズを開発する米New CultureはシリーズAで2500万ドル(約28億円)を調達した。

同社は調達した資金で生産のスケールアップ、チームの拡大を図り、2022年に代替モッツァレラチーズの市販化を目指す

応募超過となったシリーズAラウンドは、アーリーステージのディープテック企業に出資するAhren Innovation Capital、さまざまな代替タンパク質企業に出資するCPT Capital(いずれもロンドンのベンチャーキャピタル)が主導、IndieBioS2G VenturesAlumni VenturesADM Venturesなどが参加した。

今回のラウンドは2020年7月のシードラウンドに続くもので、New Cultureの調達総額は2850万ドルとなった。

微生物の力でモッツアレラチーズを開発する米New Culture

出典:New Culture

New Cultureは精密発酵により動物を使うことなくモッツァレラチーズを開発するサンフランシスコのスタートアップ企業。

精密発酵で乳タンパク質に含まれるカゼインを再現し、本物のチーズと味、食感、機能、栄養価で「区別できない」代替チーズを開発している。

カゼインはチーズの溶解性と伸縮性にとって重要な成分となる。共同創業者のMatt Gibson氏によると、乳タンパク質の1つ、ホエイではリコッタやクリームチーズなど生産できるチーズが限られるが、カゼインを使うと生産できるチーズの種類が広がる。

出典:New Culture

精密発酵はプログラムされた微生物を生産工場として、微生物に目的となる乳タンパク質を生産させる手法をいう。チーズの製造現場では30年前に導入された技術であり、新しいものではない。

乳汁を凝集させるキモシン(レンネットに含まれる酵素)は以前、屠殺した牛など反芻動物の胃から抽出されていた。レンネットの大部分は現在、レンネットを生産する遺伝子を酵母へ挿入することで、微生物発酵により生産されている。

New Cultureはレンネットで実現したことを、カゼインタンパク質に適用しようとしている。つまり、カゼインを作る遺伝子を挿入された微生物を使って、牛に頼ることなくカゼインを生産している。

精密発酵で生産されるチーズは、生産プロセスから「動物」が除外されるため、従来の畜産チーズよりもサステイナブルとなり、生産期間も短縮される。

同社のモッツァレラチーズはコレステロール、乳糖を含まないため、用途も広い。同社はカゼイン依存度の高いモッツァレラチーズに注力し、2022年にピザレストランを通じた市販化を目指している

伸び代が十分見込めるビーガンチーズ市場

出典:New Culture

Allied Market Researchによると、アメリカのチーズ市場は2019年に343億ドルと評価され、2027年までに455億ドルに達すると見込まれる。これに対し、2019年のビーガンチーズ市場は約12億ドル規模となり、2027年までに44億ドルに達すると予測される

つまり、ビーガンチーズ市場にはまだ「ギャップ」と「チャンス」がある状態といえる。

昨今、精密発酵によりアニマルフリーなチーズを開発する企業が増えている。New Cultureのほかにも、イスラエルのImagindairy、ドイツのFormo、アメリカ・オーストラリアを拠点とするChange Foods、エストニアのProProtein、ニュージーランドのDaisy Labなどの企業がアニマルフリーチーズの開発に参入している。

この中で、New CultureProProteinDaisy Labの3社はカゼインの開発に特化しており、精密発酵を活用したチーズの開発で、差別化と競争が進んでいることがうかがえる。

独立系シンクタンクのRethink Xのレポートによると、精密発酵により1キログラムのタンパク質を生産するコストは2000年の100ドルから、2025年には10ドル未満と、25年間で10分の1以下になると見込まれる。

出典:Rethink X

生産コストの減少に伴い、2030年までにアメリカの乳製品需要の90%は精密発酵技術になると予想される。

チーズは牛肉、羊肉に次いで温室効果ガスの排出量が3番目に多い動物製品とされる。生産コスト削減に伴い、畜産による環境負荷を減らすため、脱・動物性チーズの動きは今後さらに加速すると予想される。

 

参考記事

New Culture Bags $25M To Serve Animal-Free Mozzarella in Pizzerias By 2022

New-culture-lands-25-million-in-seed-funding-to-commercialize-its-cheesy-vegan-mozzarella

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:New Culture

 

関連記事

  1. 代替肉はなぜ必要なのか?代替肉の必要性、分類、現状をわかりやすく…
  2. オランダ企業The Protein Brewery、マイコプロテ…
  3. Meati Foodsの菌糸体肉、全米のホールフーズ全店舗で発売…
  4. Aqua Cultured Foodsが微生物発酵による代替イカ…
  5. ドバイが次のフードテックハブになる?UAEがドバイにフードテック…
  6. 中国代替肉企業Hey MaetがプレシリーズAで数百万ドルを資金…
  7. 【現地レポ】シンガポール展示会(Agri-Food Tech E…
  8. 【12/17】熊本発の植物肉スタートアップDAIZ社セミナー開催…

おすすめ記事

イスラエルの培養肉Future Meatが世界初の培養肉生産施設をイスラエルに開設

イスラエルの培養肉企業Future Meatが世界初の産業用培養肉生産施設を開設…

UPSIDE Foodsが培養シーフード企業Cultured Decadenceを買収

アメリカの培養肉企業Upside Foods(アップサイドフーズ)が、培養シーフ…

ファーストフードチェーンChipotleが代替油脂を開発する米Zero Acre Farmsに出資

全米で展開するファーストフードチェーンChipotle Mexican Gril…

代替マグロ開発中の米フードテックKuleana、年内に全米へ代替マグロ寿司の提供を目指す

サンフランシスコのフードテック企業Kuleanaは、クロマグロを使わない「リアルな寿司」を開発中だ。…

酵母由来の代替パーム油を開発するオランダのNoPalm Ingredientsが植物性ヨーグルトを生成

精密発酵で代替パーム油を開発するオランダ企業NoPalm Ingredients…

英Tropic、「12時間変色しないバナナ」をゲノム編集で開発|今月市場投入、賞味期限延長バナナも年内上市へ

ゲノム編集技術を活用し、5億人以上の生活を支えるバナナ、コーヒー、米といった主要…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(03/29 14:54時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(03/29 00:40時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(03/29 04:35時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(03/28 20:51時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(03/29 13:01時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(03/28 23:53時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP