イスラエルを拠点とする合成生物プラットフォーマーのEnzymitは先月、シードラウンドで500万ドル(約6億3000万円)を調達した。Enzymitは調達した資金で、コンピュテーショナルデザインプラットフォームの開発を加速し、商品を拡大する。
Enzymitのプラットフォームは酵素製造に基づいている。酵素はすべての生物の化学反応を触媒するタンパク質であり、人類の長い歴史で利用されてきた発酵も、細胞内外で起こる酵素反応によって行われる。
酵素が目的の化学物質に作用する機能は、酵素の立体構造によって決まる。酵素が各物質に作用するためには正しいコンフォメーション(形状)が必要となり、新しい酵素の構築にはより多くの構造が必要になるが、実験から収集された既知の酵素構造の数には限りがある。
AIを活用するEnzymitのプラットフォームは、従来よりも低コストかつわずかな時間で既知酵素の機能を改善できるほか、市場のニーズに対応するための新しい酵素を生み出せるという。
これにより、プラスチックの分解など自然界では見られない触媒反応を行う酵素や、極端な温度やpHなど生命に適さない環境下で機能する酵素の創出も可能だとEnzymitは考えている。
同社はコンピューテーショナルデザインプラットフォームを使用して、バイオプロダクションに使用する「新しい天然酵素」を設計している。
これらの「デザイナー酵素」は現代の生産方法で使用される非効率的で、持続可能でない汚染を伴う化学反応を置き換えることができるという。また、他の方法では製造できない複雑な分子の生産にも酵素を活用できる。
生物資源からさまざまな製品を生産するバイオプロダクションが直面する主要課題の1つは、生産に適した酵素と生物の不足だとEnzymitは指摘する。適切な酵素が存在する場合でも、発酵による細胞生産は毒性、副産物、最適でない酵素比、最適温度の変化といった問題に影響を受け、「作り手」となる新たな生物の開発を難しくしている。
Enzymitのソリューションは2つの問題を解決するように設計されている。同社は新しい反応を触媒するだけでなく、既存の酵素より優れた働きをする「新しい天然酵素」を生成するコンピュテーショナルデザインツールを開発している。これらの新しい酵素は同社が「細胞フリー」と呼ぶプロセスに使用され、細胞生産に関連するあらゆる問題を回避し、生産コストと開発時間を削減できるという。
同社技術が目指すところは、食品、ドリンク、サプリメントの原料にかかる生産コストを削減することだ。当面は、砂糖の7割程度の甘味を備えながらゼロカロリーな希少糖プシコース(アルロース)を生成する酵素の開発に取り組んでいる。
参考記事
Enzymit Inc. Successfully Closes $5 Million Seed Round to Transform the Global Chemical Market
Enzymit Raises $5M For Bio-Manufacturing Platform It Claims Can Replace Fermentation
Israeli startup uses AI to design novel enzymes, cutting cost of ingredient production
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アイキャッチ画像の出典:Enzymit