韓国の食品医薬品安全処が、国家計画に初めて代替タンパク質に関するガイドラインを盛り込むことが明らかになった。
現在、韓国では様々な原料に由来する代替タンパク質製品の認可に関する法整備は整っていない。新たなガイドラインが制定されれば、培養肉など新しい技術で開発された食品の認可基準が確立される可能性がある。新ガイドラインは2022年中に最終決定される見込みとなる。
韓国政府、2022年の国家計画に培養肉のガイドラインを追加
国家計画には培養肉の安全性評価や製造プロセスの管理制度が盛り込まれることから、韓国で近い将来、培養肉の認可が下りる可能性が考えられる。また、代替タンパク質食品を含め、新技術を使用して製造された食品に適用される新規食品添加物の認可基準の確立も想定している。
ケラー&ヘックマン法律事務所によると、韓国では食用昆虫、微生物由来タンパク質など、代替タンパク質の一部の分野についてはルール形成が培養肉分野よりも進んでいるという。例えば、韓国は認可基準の明確化を含め、新規食品成分としての食用昆虫の審査を管理する一連の詳細な法規制を発表している。
培養肉については、韓国政府が培地、足場、安全な細胞株、ドナー動物や組織の選択などに関連する枠組みを現在制定しているという。そのため、韓国で培養肉の安全性評価を適切に定め、培養肉の使用を明確にするための新たな要件が、新規食品成分の審査プロセスに盛り込まれる可能性があると同法律事務所は指摘している。
「肉」などの用語を培養肉に使用できるかなど表示規制について、韓国政府は公式に発表していない。韓国では現在、「代替肉(meat substitute/meat alternative)」などの用語は、肉製品に代替する食品を指すのに一般的に使用されているが、培養肉の新しい枠組みにもこれが適用されるか、現在では明らかにされていないという。
韓国の培養肉スタートアップ
韓国政府の代替タンパク質を促進する動きに呼応するように、韓国では複数の培養肉企業のニュースが続いている。
細胞由来の豚肉、鶏肉、牛肉を開発するSpace Fは今年5月、韓国政府から助成金を獲得した。韓国の総合食品大手CJ第一製糖は、細胞培養培地を開発するKCell Biosciencesと提携して、今年後半、釜山に細胞培養施設の建設を予定している。CJ第一製糖はイスラエルの培養肉企業アレフ・ファームズとも提携している。
CellMEATは5月に約10億円を調達した。同社は細胞培養によるエビ、カニ、ロブスターの開発を進め、シンガポール市場への参入を目指している。
藻類由来の独自の足場、培地を活用するSeaWithは培養ステーキ肉を開発している。同社も新規食品の導入に積極的なシンガポール、アメリカを参入市場に考えていたが、今回の韓国政府の動きによって、拠点となる韓国市場を優先させるかもしれない。
ルール形成で遅れる日本
培養肉は2020年末にシンガポールで販売されて以来、他の国ではまだ販売の認可が下りていない。
畜産由来の温室効果ガスによる気候危機を食い止め、高まる食料需要に対応するために、世界中で培養肉スタートアップが登場し、開発が進んでいる。
国内では6月、培養肉の法整備を目指す自民党の有志議員による「細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟」が発足した。厚生労働省も培養肉の生産工程におけるリスクを洗い出す研究班を設置する方針を固めるなど、ルール形成を促進する動きが見られている。
しかし、韓国のように国家計画に培養肉の安全性評価などの項目を盛り込む段階には至っていない。
ルール形成の遅れは、国内企業の産業上の不利を招き、国際競争力の低下を招くため、日本でもより踏み込んだ国主導の動きが期待される。
東京大学先端科学技術研究センターの井形彬氏・多摩大学ルール形成戦略研究所の吉富 愛望 アビガイル氏は、ルール形成の遅れは、他国の都合や国益が反映されたルールに追随せざるを得なくなる事態を招くと警笛を鳴らしている。
参考記事
South Korea Promotes Alternative Proteins in Its National Plan
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アイキャッチ画像の出典:SeaWith