アメリカで精密発酵で開発されたタンパク質の市場投入が加速している。
精密発酵により動物に依存せずに乳タンパク質を開発するパーフェクトデイは先月、世界最大のオンラインスポーツ栄養ブランドのMyprotein(マイプロテイン)とアニマフリーな乳タンパク質を使ったプロテイン製品「Whey Forward」の開発で提携した。
これは6月に発表された、大手食品会社マースによる同乳タンパク質を使ったビーガンチョコレート製品発売に続くニュースとなる。
大手プロテインブランドMyproteinが精密発酵タンパク質を採用
「Whey Forward」は、パーフェクトデイが精密発酵により開発したホエイタンパク質を使用しており、二社の最初の共同ブランド製品となる。
遺伝子組換えした糸状菌Trichoderma reeseiを使って生成されるホエイタンパク質は、牛由来のタンパク質と完全に同等であり、Myproteinの受賞歴のある「Impact Whey」に必要な栄養を満たすものとなる。
精密発酵由来のタンパク質は従来のタンパク質の栄養、味、食感を損なうことなく、環境負荷の大幅な削減を可能とする。パーフェクトデイによると、従来の製造方法よりも水使用量を最大99%、温室効果ガス排出量を97%削減できるという。
広大な土地や飼料、水を必要とし、感染症や異常気象など突発事象の影響を受ける既存の生産システムと違い、精密発酵由来のタンパク質は施設内で年間を通じた生産が可能であるため、環境負荷を抑えつつ安定した供給が可能となる。
「Whey Forward」はミントチョコレート、塩キャラメル、チョコレートブラウニーの3つの味でオンライン販売されている。1回タイプ(4.99ドル)から20回分(39.99ドル)までサイズを選ぶことができる。7月の発売から1ヶ月足らずで100近くのレビューがついており、高評価が多い。
イスラエルでも精密発酵タンパク質の上市迫る
パーフェクトデイは世界で最初に精密発酵由来のタンパク質を発売した企業であり、2020年にFDAの認可を取得後、これまでにアメリカ、香港、シンガポールに展開している。
子会社The Urgent Companyがブランド展開を担当し、アイスクリーム、クリームチーズ、牛乳、スポーツ用プロテイン、パンケーキミックスなどさまざまな製品に同社タンパク質が使用されている。
昨年のオバマ元アメリカ大統領の60歳の誕生パーティーでは、さまざまな代替タンパク質製品を使ったメニューが用意されたが、その中にはパーフェクトデイの製品も含まれていた。
昨年のシアトルのスターバックスでの試験導入に続き、今年はマースなど大手メーカーとの提携のほか、Tomorrow Farms、Strive Nutritionなどスタートアップ企業との提携も実現している。
精密発酵タンパク質の上市ではパーフェクトデイが先行するが、卵白を開発したThe Every Companyの販売に続き、6月にはイスラエルのRemilkがアメリカで認可を取得するなど、今後さらなる市場投入が予測される。
現時点で流通はアメリカ、香港、シンガポールに限られるが、Remilkはアメリカ・イスラエルでの上市を予定しており、年内または来年にはイスラエルでも精密発酵食品の上市が予想される。
ステビア甘味料で示された精密発酵の圧倒的な持続可能性
イングレディオンは最近、天然による大量生産が難しいとされるステビア甘味料のRed Mについて、葉抽出、生物変換、精密発酵の3つの製造方法について持続可能性を比較した。
これは初期調査となり、最終的な結果は秋に発表される予定だが、精密発酵由来のRed Mが土地利用、水使用、気候変動、エネルギー需要の4つの指標において最も持続可能であることが示されている。
カーギルとDSMが設立した合弁会社Avansyaは2019年、精密発酵でRed M、Red Dを生産するアメリカ初の商用規模の生産施設をネブラスカ州ブレアに開設している。このRed M、Red DはAvansyaのブランドEversweetとして販売されている。これまでにアメリカ、欧州、メキシコ、カナダ、アジアの国で認可されている。
8年で22倍の成長が見込まれる精密発酵市場
精密発酵の食品への普及は、上記のように甘味料や酵素が先行している。代表例はチーズ製造で使用されるキモシンだが、昨今は、乳製品、卵白、ハチミツ、植物肉に使用されるヘムなど身近な食品にも普及が進んでいる。
MarketsandMarketsによると、精密発酵市場は2022年の16億ドルから2030年には363億ドルに達すると予想される。
原料の置き換えによりさまざまな食品に浸透していく特徴ゆえに、影響は広範囲で、置き換えは目立たない形で進行していく。国内では諸外国に比較して環境意識の低さ、ビーガン人口の少なさが、代替タンパク質普及を阻む障壁の1つとされる。
法整備の遅れも、企業が積極的な投資をしにくい状況を生んでいると考えられるが、環境負荷を軽減した食料生産、食料自給率の改善、国内産業力の強化のために国・企業ともに注視していくべき分野だといえる。
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アイキャッチ画像の出典:パーフェクトデイ