ニュージーランドの大手乳業メーカー・フォンテラ(Fonterra)とオランダ大手化学メーカー・Royal DSMは25日、精密発酵のスタートアップ企業を設立することを発表した。このスタートアップは、乳製品のような特性を備えた精密発酵由来タンパク質の開発と商用化を加速させることを目的としている。
遺伝子組換え微生物を活用して動物由来と同一のタンパク質生成を可能とする精密発酵は、畜産由来タンパク質と比べ、温室効果ガス排出量、土地利用、水消費を大幅に削減できる環境効果と食料危機への対策として、急速に研究が進む代替タンパク質の1分野だ。
精密発酵で開発されたタンパク質はアメリカで2020年に上市された。最近では大手プロテインブランドMyproteinが精密発酵タンパク質を使った商品を発売するなど、大手の導入も進むが、流通はほぼアメリカ市場に限られている。
フォンテラは現地生産の95%を海外に輸出し、自社ブランドを130カ国以上に展開している。大手乳業メーカー・フォンテラが参入したことで、他社の乳業メーカーもこの動きに続く可能性がでてきた。
フォンテラとDSMが精密発酵スタートアップ立ち上げを発表
フォンテラとDSMは2019年以降、精密発酵を使用して、乳製品に存在するものと同様のタンパク質を生産する方法について包括的理解を構築するために協業してきた。新会社設立は二社の長期的な共同開発関係が次のステップへ進んだことを意味する。
新会社(社名は未決定)はフォンテラとDSMの知的財産を活用して商用化を加速させ、精密発酵の研究開発をさらに進めていく。
フォンテラでイノベーションとブランドを担当するKomal Mistry-Mehta氏は、「精密発酵の科学技術に関してDSMが持つ世界トップレベルの知見と、フォンテラの世界有数の乳製品科学技術を結合できるすばらしい機会です」とコメントしている。
同氏はさらに、「今後も当社の持続可能で牧草由来の乳製品に対する強い需要は続くでしょう。同時に、消費者の嗜好が進化していることも認識しています。新しい技術で生産されたタンパク質は当社の乳製品とも連携できると信じています」と述べている。
フォンテラとDSMは、ニュージーランドの牧草地でDSMのメタン抑制Bovaer技術の適用を調査することで、農場における温室効果ガス排出量削減でも協業している。
精密発酵由来製品をすでに認可しているオセアニア
精密発酵は乳タンパク質など特定の遺伝子を微生物に挿入し、発酵槽の中で微生物に糖など栄養分を与え、発酵により目的のタンパク質を生成する手法を指す。最終産物から微生物は除去される。
糖尿病治療薬のインスリン製剤やチーズの凝乳酵素キモシンからビタミンの生産などに幅広く使用されている技術だ。コスト削減に伴い、ここ数年食品の生産にも浸透している。
第一の波を生み出したのがアメリカのパーフェクトデイであり、同社の乳タンパク質はアイスクリーム、クリームチーズ、ミルク、プロテイン粉末などさまざまな形態で市販されている。
これまではベンチャー主導の動きだったが、今回のフォンテラ×DSMのニュースに加え、食品大手マースの参入、穀物加工大手のADMがスタートアップとの提携に加え新たな精密発酵企業を立ち上げるなど、大手の参入や参入をにおわせる乳業大手のコメントもみられる。
特にニュージーランドとオーストラリアは、米インポッシブルフーズが植物肉に使用している精密発酵由来ヘムを2020年に承認しているため、精密発酵で生成されたタンパク質については法整備が進んでいる。そのため、アメリカに続きニュージーランド、オーストラリアで精密発酵タンパク質の市販が加速していく可能性は高い。
参考記事
Fonterra ramps up opportunities in complementary nutrition partnership
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アイキャッチ画像の出典:Fonterra