細胞培養により魚の培養脂肪を開発するシンガポール企業ImpacFat(インパクファット)は1日、Big Idea Venturesのデモデイで世界初の培養魚脂肪を発表した。
シンガポール食品庁(SFA)の承認を受けて、シンガポールのナショナルギャラリーで開催された試食会には、代替タンパク質業界のさまざまな企業に所属する参加者が参加した。
試食会では植物タンパク質とImpacFatの培養魚脂肪を使用した植物性シーフードのフライが提供された。
ImpacFatが世界で初めて培養魚脂肪の試食会を実施
植物肉の風味やジューシーさを改善するために動物脂肪を開発・製造するスタートアップが増える中、ImpacFatを創業した日本人研究者杉井重紀氏は、スポットをあてられていなかった魚の培養脂肪に着目。2019年から研究開発を開始し、今年3月にシンガポールでImpacFatを設立した。
魚の培養脂肪は、オメガ3脂肪酸を豊富に含み、抗酸化物質も多く含ませることができる。
代替肉に使用される油脂は加工によって酸化しやすかったり、加熱後に漏れ出したりしてしまうなどの問題があるが、魚の培養脂肪は「自然の肉の脂肪により近く、個別の代替肉にカスタマイズ可能」だという。また、抗生物質、水銀、マイクロプラスチックなどを含まない安全でクリーンな点も魚の培養脂肪がもたらすメリットといえる。
Foovoが主催した今月のセミナーで杉井氏は、試食会で実施された無記名アンケートの結果について、5段階評価で各項目4.1~4.5と、「おおむね好評」なフィードバックが得られたと述べている。
多様な技術で開発が進む代替脂肪
ImpacFatは今年、アジア最大級の環境技術公募「2022年ザ・リバビリティ・チャレンジ」や「Asia Pacific Agri-Food Innovation Summit」で受賞するなど、注目を集めている。
現在、シードラウンドの資金調達を実施しており、資金を調達後は、パイロット製品を製造するプラットフォームの構築を予定している。
ImpacFatの他にも、近年、脂肪に着目するスタートアップは急増しており、代替肉と比べ、使用する技術が多様なことが特徴といえる。
Big Idea Venturesが支援するドイツ企業Cultimate Foodsは、植物肉に使用される植物油脂に変わる培養脂肪をB2Bで提供するために昨年設立された。
培養脂肪を開発する英Hoxton Farmsは10月、シリーズAラウンドで2200万ドル(当時約32億円)を調達し、ロンドン中心部にパイロット工場を建設している。
精密発酵で脂肪を開発するオーストラリアのNourish Ingredientsは先月、シリーズAラウンドで2860万ドル(当時約39億円)を調達し、来年の上市を目指している。
スウェーデン企業Green-Onは、電気・水・空気から代替脂肪開発に取り組んでおり、Green-Onもまた、Big Idea Venturesの支援を受けている。
このほか、ヒマワリの種に見られるオレオソームという天然の脂肪滴を活用して乳製品や代替肉用途の脂肪を開発するオランダ企業Time-Travelling Milkmanや、オレオゲル技術による米ぬか油を使用した代替脂肪を開発するParagon Pureなど、さまざまな技術を用いた代替脂肪の開発が確認されている。
参考記事
The World’s First Cultivated Fish Fat Dives Into the Cell-Based Fat Category
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アイキャッチ画像の出典:ImpacFat