精密発酵技術で生成された食品がアメリカ、シンガポールなどで販売されている。
Foovoではこれまで、必要成分だけの作成を可能とする精密発酵の可能性に注目し、重点的に海外ニュースを紹介してきた。
では、精密発酵タンパク質を使用したミルクの現在の完成度はどれほどのものなのか?
今回、シンガポールに先月上陸した米Perfect Day(パーフェクトデイ)の「Very Dairy」を試食したので、感想を紹介したいと思う。
精密発酵乳タンパク質を使用したミルク「Very Dairy」を試食
こちらがシンガポール市内のスーパーで先月より販売されている「Very Dairy」。
精密発酵の代表企業・米パーフェクトデイが開発した乳タンパク質を使用している。先月にはパーフェクトデイと提携してネスレが試験販売を開始するなど、海外では大手の参入が相次いでいる。
味は、オリジナル、チョコレート、ストロベリーの3種があり、今回オリジナルとチョコレートを飲んでみた(チョコレートは写真を撮るのを忘れた)。
商品には、ラクトース、コレステロールを含まないことが書かれている。アジア初のアニマルフリーな乳製品ミルクとの表示も。
注いでみると、ぱっと見は普通の牛乳と変わらない印象。
今回の実食レビューでは、私(Foovo佐藤)だけでなく、家族にも協力してもらった。
精密発酵乳タンパク質を使用したアイスクリームは食べたことがあるが、ミルクは初めて。
よりごまかしのきかないミルクは果たしてどんな味なのか?この製品は、ホエイタンパク質を使用している(原材料表示はこちらから)。
一口目の印象は、薄い。牛乳には遠い。コクはほぼなし。牛乳を口に含んだ瞬間に広がるあの独特のコク、風味がない。バニラのアイスクリームで感じたあっさり感、コク不足が浮き彫りになった感じ。そして、やや水っぽい印象。
ただ、今回のレビューでは批判する意図は全くなく(むしろこの技術を応援している)、精密発酵ミルクの現在地を把握することが目的だった。
現在の仕上がりにそれほど期待していなかったので、現時点では◎ではないかと思う。
精密発酵と細胞培養どちらによるものになるかわからないが、乳脂肪を添加するなどして改善されていくと思う(Very Dairyではココナッツ油、キャノーラ油を使用。細胞農業で乳脂肪を開発する企業は何社かいる:Wilk、Phyx44)。
パーフェクトデイも、この点については改善を検討している趣旨をコメントをしている。
味、特にコクについては、日本の食品企業が持つ美味しさの技術を導入することで改善されるのではないかとも期待している。
詳しい成分表示や栄養表示の写真は撮り忘れたので、確認したい方はこちらから。
既製品を基準にしてみる
一つの基準として、オーツ麦を使用した植物ミルク「アルプロ」を参考にすると良いと思う。
「Very Dairy」は、アルプロが好きな人は受け入れられる可能性がある。アルプロでは満足できない人、日常的に飲むには不満がある人には、「Very Dairy」は不満に感じると思う。
私の一口目の印象は、アルプロに近い。帰国して、再度アルプロを飲んだところ、私も家族も、コクの点ではアルプロがやや優ると感じた。
スウェーデンのオートリ―も交えた全体の評価では、
オートリ―>アルプロ>精密発酵ミルク
という順位になると思う。
家族の感想はより厳しく、コクがなく、牛乳には遠いとの感想。さらに、変な甘みがあるという。確かに、「Very Dairy」には不思議な甘みがあり、コク不足をカバーさせるための甘さかもしれない。
アルプロやオートリ―にはそういった余計な甘さはない。
家族はチョコレートミルクについては良しとの感想だったが、私はオリジナルよりチョコレートの薄さが気になった。
シンガポールのCS Fresh、Fair Priceスーパーで入手可能
公式サイトによると、「Very Dairy」はシンガポールの主要スーパーで販売されている。
実際にどのお店で入手できるかがすべて掲載されているので、シンガポール出張などで買いに行く人はここからチェックしてみてほしい。
今回、クラーク・キーから徒歩数分の、UE SquareにあるCS Freshというスーパーで購入した。
牛乳コーナー↓
2本買うと、2本で7.9シンガポールドルになるというプロモーション用POPが貼付されている。
定価は1本4.95シンガポールドルだが、今だけ2本購入すると2シンガポールドル割引になっていた。
レシート↓
全体写真ではわかりづらいが、オーストラリアの牛乳「Pauls Milk」が1本3.95シンガポールドルに対し、「Very Dairy」は1本4.95シンガポールドルなので、既存の牛乳とほぼ同等価格を実現しているよう。
参考に、オーツ麦など植物ミルクは6~9シンガポールドルなので、植物ミルクよりは安くなっている。
店内のプロモーションだけでなく、パーフェクトデイが広告に力を入れていることは、地下鉄に乗っていても感じた。
こちらはシンガポールの地下鉄で流れていたCM動画。アイスクリームの「Coolhaus」とミルクの「Very Dairy」を紹介しており、地下鉄のCM動画で登場していた代替ミルクは「Very Dairy」だけだった。
シンガポールの地下鉄車内で流れていた精密発酵パーフェクトデイのCM動画。市内の電子掲示板でも同じ動画を見かけたので、マーケティングに力入れているようです。 pic.twitter.com/UNo9x9lDD0
— フードテックニュース専門メディア【Foovo】 (@FoodTechJapan) January 5, 2023
同じCMを、市内の電子掲示板でも見かけたので、現在、結構プロモーションに力を入れているようだった。
それでも精密発酵には未来を感じる
精密発酵ミルクについていろいろ厳しいことを書いたが、あくまで、現時点での仕上がりなので、伸びしろはまだある分野だと思っている。
ホエイやカゼインなど必要なタンパク質を作成して、最終製品を作る効率的でボトムアップ式のやり方であること、工場があれば世界どこでも生産が可能であること、環境負荷の軽減が報告されていること、生産コストが今後も削減していくことを考えると、精密発酵には未来を感じる。
といっても、酪農がなくなるとは思えず、大衆品(精密発酵)と高級品(本物の牛乳)のように、共存する方法が議論されていくと思うし、酪農家との共存を目指すスタートアップ企業もいる。
ちなみに、今回家族に精密発酵乳タンパク質のアイスクリームを2つ試してもらったところ、バニラがメインのフレーバーについては「いまいち」という感想だったのに対し、チョコレートは文句なしだった。
精密発酵のタンパク質を使用した食品はまだ日本には入ってきていないが、この技術を応用した食品がどこまで発展するのか、今後が一層楽しみになった。
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