3Dプリンター

イスラエルの培養肉企業Steakholder Foods、バイオ3Dプリンターの商用化に向けて加速

 

イスラエルの培養肉企業Steakholder Foods(旧称MeaTech)は、培養肉業界で最初にNasdaq上場を果たし、2021年には約100グラムの培養ステーキ肉に成功するなど、業界の注目を集めてきた。

同社は食肉メーカー・培養肉企業が自社で培養肉を製造できるよう、B2Bビジネスモデルの具体的な戦略を今年5月に発表したが、設立当社から、B2Bによる大量生産を可能な限り早く実現することを目標に掲げていた

そして現在、培養肉のB2Bビジネスモデルの実現に向けて歩みを加速している。

カスタマイズを可能にするバイオ3Dプリンター用ソフトを発売

出典:Steakholder Foods

Steakholder Foodsは今月、クライアントが広範なCADトレーニングをすることなく使用できる独自のソフトウェア「Light CAD Editor」の発売を発表した

バイオ3Dプリンターで培養肉を製造するためには、実機の3Dプリンターだけでなく、データを作成するCADソフト、材料となるバイオインクが必要になる。

今回発表された「Light CAD Editor」は同社のバイオ3Dプリンターと併用するソフトとなる。これにより、クライアント企業はオンサイトで食感をカスタマイズできるようになるため、消費者や業界の期待に応えられるようになるとSteakholder Foodsは考えている。

同社でCEO(最高工学責任者)を務めるItamar Atzmony氏は、「最高の3Dプリント肉製品の設計には多くの試行錯誤が必要であり、顧客が製品を最適化するためのツールを必要としていることを私たちは経験から知っています。だからこそ、3Dプリントを提供するだけでなく、これまでにないカスタマイズを可能にする包括的ソリューションを提供しています」と述べている。

バイオ3DプリンターのB2Bビジネスモデル

RTCプリンター DropJet型(左)Fusion型(右) 出典:Steakholder Foods

同社はB2Bビジネスモデルの一環として、バイオ3Dプリンターとバイオインクによる収益化も目指している

現在、2種のバイオ3Dプリンターを開発している。植物成分と培養成分を混合したハイブリッド肉製品用のReady to Cook(RTC)プリンターと、生きた細胞をプリントする培養製品用の3Dプリンターだ。

現在の主力製品はRTCプリンターだが、完全な培養製品で規模の経済を実現、つまり、完全な培養製品を低コストで大量生産できるようになった時、他社との差別化ポイントは培養製品用の3Dプリンターになると同社は考えている。

また、RTCプリンターについては、異なる最終製品を製造するために、DropJet技術Fusion技術のいずれかを使用したラボ用・工業用の3Dプリンターを提供する予定だ。

DropJet型バイオ3Dプリンターはゲル成分を滴下して三次元構造を作るもので、シーフード製品に適している。今年5月に発表された培養ハタの切り身はこのプリンターで製造されている。Fusion型バイオ3Dプリンターは、ペースト成分をノズルから押し出すタイプで、肉製品に適したものとなる。

DropJet型バイオ3Dプリンターで作られた培養魚 出典:Steakholder Foods

3Dプリンティングに不可欠なバイオインクは、植物成分と培養細胞で作られたものとなり、3Dプリンターとセットで購入できる。今後はクライアントがニーズや好みに合わせたバイオインクを作れるよう、カスタマイズオプションも提供する予定だ。公式サイトによると、エビのバイオインクも開発中のようだ。

Steakholder Foodsは、3Dプリンターで培養肉を作るための設備、材料をクライアントに提供するだけでなく、カスタマイズも可能にすることで、自社でブランド製品を展開する以上の影響を業界にもたらそうとしている。

6月には、工業規模のバイオ3Dプリンターのアップグレードが完了したことを発表した

このプリンターがどのタイプかは不明だが、数百のプリントヘッドノズルが搭載されたもので、さまざまな動物種のハイスループット印刷ができるという。月産数トンの肉生産を見込んでおり、着実に商用生産へ前進している。

湾岸協力会議(GCC)と培養肉工場建設に向けた提携

Arik Kaufman氏 Foovo(佐藤あゆみ)撮影

7月には、バイオ3Dプリンティング技術の商用化に向けて、大きな合意締結にいたる。

バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の経済連合を代表する湾岸協力会議(GCC)の政府機関と、戦略的提携に関する数百万ドル規模の基本合意書(MOA)を締結した。これはSteakholder Foodsにとって初の戦略的パートナーシップとなる。

この提携は、3Dプリントされたハイブリッド魚製品を生産するパイロット工場建設への投資から始まり、最終的にはペルシャ湾地域初となる大規模工場の建設を目指している。この施設では、ハイブリッド肉製品用のRTCプリンターとバイオインクに関するSteakholder Foodsの知見を活用し、魚や肉など培養ハイブリッド製品を製造する。

また、3Dプリンター技術の調達のため、Steakholder Foodsに内金が支払われる予定だという。

同社CEO(最高経営責任者)のArik Kaufman氏は、「数年にわたる集中的な開発期間を経て、Steakholder Foodsは戦略的パートナーとの最初の契約を締結し、培養肉業界初の実質的な収入契約の一つとなる最初の収入源を得ることができました。これは、大きな一歩です」とプレスリリースで述べている。

 

参考記事

Steakholder Foods® Launches 3D Modeling Software for Use by Clients, Ushering in a New Era of 3D Model Customization

Steakholder Foods® Unveils 3D Bio-printing Business Model

Steakholder Foods® Signs First Ever Multi-Million-Dollar Agreement with GCC Governmental Body to Commercialize its 3D Bio-Printing Technology

 

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アイキャッチ画像の出典:Steakholder Foods

 

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