代替プロテイン

米インポッシブル・フーズ、欧州市場進出に向け一歩前進|EU当局がヘムの安全性を暫定的に認める

 

インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)が開発した代替肉に使用される「ヘム」について、欧州食品安全機関(EFSA)は安全性に問題がないとの結論を発表した。Green queenが報じた。

完全な承認にはまだプロセスが残っているものの、2019年から欧州市場での承認を目指してきたインポッシブル・フーズにとって、今回の発表はEU進出に向けた大きな一歩となる。

EFSAの意見書(Safety of soy leghemoglobin from genetically modified Komagataella phaffii as a food additive)によると、新規食品添加物としての遺伝子組換え微生物(Komagataella phaffii MXY0541)由来の大豆レグヘモグロビン「LegH Prep」について、意図された使用・使用量で安全性の懸念を引き起こさないと結論づけられている。

ただし、この安全性評価は暫定的であり、現在進行中のGMOパネルによる生産株の遺伝子組換えに関する安全性評価が条件となる。

インポッシブル・フーズ、欧州市場進出に向け一歩前進

出典:Impossible Foods

インポッシブル・フーズが申請した食品添加物「LegH Prep」は、代替肉の着色料として使用することを目的とした液体原料となる。製造プロセスでは、遺伝子組換え酵母を発酵させ、細胞破砕を経て不溶性物質を除去。得られた濃縮物を熱安定化した後、安定剤で調合し、凍結液体として保存する。

アメリカではこの大豆レグヘモグロビンは2018年にアメリカ食品医薬品局(FDA)が安全性に問題ないと結論付け、FDAによりGRASであることが認められた

同社がEFSAのGMOパネルに評価を依頼したのは2019年10月だが、2021年12月から現在までリスク評価は中断されている。当局は2021年にDNAシーケンシングに関する追加の情報提出を同社に求めた。

当時のレターによると、要求された情報が提出されるまで、評価プロセスは中断されると書かれている。GMOパネルのリスク評価は2025年6月25日までとなり、この期限までにインポッシブル・フーズは要求された情報を提出しなければならない。

ヘムとは

出典:Impossible Foods

ヘムは、植物肉に動物肉のような色・風味をもたらす成分である。

インポッシブル・フーズは2011年、「肉の味を肉らしくするには何が必要か」という疑問から開発を開始し、小さな分子だが風味に影響を及ぼす、肉らしさの「決め手」になるヘムに着目した。ヘムは、肉に「血の滴る」感じをもたらし、調理すると肉らしい風味・味を生み出すものだが、簡単に入手できるものではない。

同社によると、ヘムはあらゆる動物、植物に自然に存在する。同社は植物界で動物肉に含まれるヘムと基本的に特性が一致するヘムタンパク質を探した結果、大豆にたどり着いた

大豆がレグヘモグロビンという、血液中のヘムと機能的に同一のタンパク質を作りだすことはわかっても、大量生産の壁があった。インポッシブル・フーズは、遺伝子組換え酵母を活用した精密発酵によりヘムの開発に成功

これまでにアメリカのほか、カナダオセアニアシンガポール、香港UAEに進出している。

実は、大豆レグヘモグロビンに含まれる「ヘム」という赤色色素が、血液中にあるヘモグロビンと同様のヘム蛋白であることを世界で最初に報告したのは日本の久保秀雄氏である

大豆根粒に存在する大豆レグヘモグロビンには、Lba、Lbc1、Lbc2、Lbc3の主に4タイプが存在し、インポッシブル・フーズのヘム「LegH Prep」はLbc2となる。

Foovo(佐藤)撮影 シンガポールで購入(2024年7月下旬)

意見書によると、インポッシブル・フーズは菌株の将来の改良に対応するため、認可は特定の生産菌株に紐づけられるべきではないと提案した。これに対し当局は、食品添加物の認可は安全性評価に使用される特定の生産菌株MXY0541と紐付けられるべきであり、生産菌株を変更した場合は、新たに安全性評価が必要になると提案している。

当局は「LegH Prep」について、遺伝毒性亜慢性毒性(半年など長期間の摂取により生じる毒性)、アレルゲンなどについて安全性の懸念は引き起こさないと結論付けた。

GMOパネルの評価の行方が認可を左右するが、インポッシブル・フーズを始め、精密発酵でタンパク質を開発する企業、特にPaleoのように精密発酵ヘムを開発する企業にとって、安全性に懸念がないとのEU当局の結論は追い風となるだろう。

 

参考記事

Impossible Foods Closer to EU Approval After Vegan Burger Clears Safety Assessment

Safety of soy leghemoglobin from genetically modified Komagataella phaffii as a food additive

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Impossible Foods

 

関連記事

  1. ERGO Bioscience、植物細胞培養によりミオグロビン・…
  2. 安価な成長因子を開発するカナダのFuture Fieldsが約2…
  3. 【現地レポ】Perfect Dayの精密発酵乳タンパク質を使用し…
  4. 韓国が培養肉特区を創設、商用化の鍵となる細胞供給で特例を設ける
  5. 代替母乳のTurtleTree、カリフォルニアに研究施設開設を発…
  6. 米Nepra Foods、製パン用の代替卵白粉末の商用生産を開始…
  7. ソーラーフーズ、米レストランでCO2由来の微生物タンパク質「ソレ…
  8. アレフ・ファームズが培養肉のパイロット生産施設を今夏にオープン、…

おすすめ記事

イスラエルのEver After Foodsが「破壊的な」培養肉生産プラットフォームを発表

費用対効果の良い培養肉生産プラットフォームを開発するイスラエル企業Ever Af…

米Puretureが植物性の代替カゼインの開発を発表

写真はイメージアメリカのスタートアップ企業Pureture(旧称Armored Fresh Te…

イート・ジャストがカタールへの培養肉工場の建設でQatar Free Zones Authorityと提携

シンガポールに続き、次に培養肉の販売を承認する国がカタールとなる可能性がでてきた…

米New Cultureが精密発酵カゼインのスケールアップに成功、1回のプロセスでピザ25,000枚分のチーズを生産可能に

精密発酵によるカゼインタンパク質を開発する米New Cultureは今月、1回あ…

牛乳の全成分を含んだ培養ミルクを開発するカナダ企業Opalia

カナダ、モントリオールを拠点とするOpalia(オパリア)は、ウシ胎児血清(FB…

幅広い植物肉製品を開発するHungry Planetが約27億円を調達

植物性の代替肉を開発するHungry PlanetがシリーズAラウンドで2500…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(02/21 14:43時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(02/22 00:24時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(02/22 04:19時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(02/21 20:41時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(02/21 12:47時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(02/21 23:38時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP