ミツバチに依存しないハチミツを開発する米MeliBioが、スイスの食品企業FoodYoung Labsにより買収された。
買収対象となったのは、植物由来の第1世代ハチミツ技術とブランド「Melody」、および関連する知的財産であり、精密発酵による第2世代ハチミツ技術は含まれていない。
MeliBioの共同創業者でCEO(最高経営責任者)のDarko Mandich氏はAgFunderの取材に対し、精密発酵技術の扱いについて「選択肢が限られているため、中長期的には未定です」とコメントしている。
MeliBioが進めた第1世代技術と市場実績

出典:MeliBio
MeliBioは2020年に創業。ハチミツのサプライチェーンからミツバチを排除し、生態系に不可欠な野生の花粉媒介者であるミツバチの繁栄を守るという使命を掲げてきた。
研究によれば、野生のミツバチは花粉媒介者として約15億ドルの価値を持つ可能性があり、野生ミツバチの減少が、農業の生産性を脅かしかねないことが報告されている。
MeliBioは精密発酵ハチミツの開発に先立ち、植物成分でハチミツを再現する第1世代技術の商用化を先行させてきた。
2022年にはサンフランシスコとニューヨークの一部レストランで製品を導入。2023年3月にはアメリカ向けブランドとして「Melody」を立ち上げた。
さらに欧州では2023年12月、パートナー企業Narayan Foodsのブランド「Better Foodie」としてイギリスで発売され、昨年1月にはドイツの大手小売業者Aldiがスイス、オーストリアに所有する店舗でPB「Just Veg!」として発売されるなど、欧米での市場投入を拡大してきた。
一方、精密発酵によるハチミツ開発も並行し、2024年前半には「2023年には第2世代精密発酵プラットフォームで大きな前進を遂げ、将来的に、さらに革新的で持続可能な商品の発売に向けた準備を整えました」と発表していた。
2024年後半には、Pow.Bioとの提携で、主要酵素の力価が1300%増加するなど、精密発酵で一定の成果が発表されていた。
今回買収を行ったFoodYoung Labsは、スイスのバレルナに1,500平方メートルの施設を有し、スナック、バー、チョコレート、スプレッド、焼き菓子、冷凍食品を開発し、ZAZ、Kakoo、Bonnapなどの自社ブランドも有する食品メーカー。試作品製造・パイロット製造・ブランド戦略・パッケージデザイン・市場導入支援など受託開発・製造も手掛けている。
AgFunderによれば、「Melody」の製造拠点は現在のカリフォルニアからFoodYoung Labsのバレルナの施設へ移され、今後は同社がアメリカ市場への展開を担うという。
部分売却が示唆する今後のシナリオ

出典:MeliBio
今回の買収の詳細は公開されていないが、MeliBioの置かれた経営状況や技術選別に一定の意図がうかがえる。
Mandich氏はAgFunderの取材において、2024年が「個人的に最も困難な年だった」と振り返っている。市場環境の厳しさを背景に、スタートアップには時間が必要である一方、市場はそれを許容しない現実があるとの見解を示している。
こうした発言からは、MeliBioが資金調達面で大きな課題を抱えていたことがうかがえる。
譲渡による対価や報酬の詳細は明らかにされていないが、今回の買収は、精密発酵技術に経営・人的リソースを集中させるために、収益化実績のある第1世代技術とブランドを手放し、第2世代技術の実装に向けて、資金を確保する「選択と集中」の戦略だった可能性がある。
一方で、買収側のFoodYoung Labsが、市場投入や規制ハードルが高い第2世代技術をあえて取得対象から除外した可能性も考えられる。
いずれにせよ、第2世代技術がMeliBio側に残っていることは確かであり、現時点では未定ながら、今後たとえばスピンアウトや新会社設立、ライセンス供与、追加売却、パートナー企業との共同開発といった複数のシナリオが想定される。
上記をふまえると、MeliBioにとって買収は成果であり到達点であると同時に、新たな局面に移行したことを示す。Foovoとしては今後1年以内に精密発酵技術をめぐり、どのような動きがあるかを注視したい。
Foovoでは、精密発酵ハチミツ技術の展開で今後考えられる可能性について、Mandich氏に問い合わせをしており、回答が得られれば、追加情報をお伝えする。
※本記事は、プレスリリースおよびAgFunderの報道をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像の出典:MeliBio