フードテック

植物性ハチミツの米MeliBioをスイスのFoodYoung Labsが買収──精密発酵技術は買収対象外

2025年5月30日更新

ミツバチに依存しないハチミツを開発する米MeliBioが、スイスの食品企業FoodYoung Labsにより買収された

買収対象となったのは、植物由来の第1世代ハチミツ技術とブランド「Melody」、および関連する知的財産であり、精密発酵による第2世代ハチミツ技術は含まれていない

MeliBioの共同創業者でCEO(最高経営責任者)のDarko Mandich氏AgFunderの取材に対し、精密発酵技術の扱いについて「選択肢が限られているため、中長期的には未定です」とコメントしている

MeliBioが進めた第1世代技術と市場実績

出典:MeliBio

MeliBioは2020年に創業。ハチミツのサプライチェーンからミツバチを排除し、生態系に不可欠な野生の花粉媒介者であるミツバチの繁栄を守るという使命を掲げてきた。

研究によれば、野生のミツバチは花粉媒介者として約15億ドルの価値を持つ可能性があり、野生ミツバチの減少が、農業の生産性を脅かしかねないことが報告されている

MeliBioは精密発酵ハチミツの開発に先立ち、植物成分でハチミツを再現する第1世代技術の商用化を先行させてきた。

2022年にはサンフランシスコとニューヨークの一部レストランで製品を導入。2023年3月にはアメリカ向けブランドとして「Melody」を立ち上げた

さらに欧州では2023年12月、パートナー企業Narayan Foodsのブランド「Better Foodie」としてイギリスで発売され、昨年1月にはドイツの大手小売業者Aldiがスイス、オーストリアに所有する店舗でPB「Just Veg!」として発売されるなど、欧米での市場投入を拡大してきた。

一方、精密発酵によるハチミツ開発も並行し、2024年前半には「2023年には第2世代精密発酵プラットフォームで大きな前進を遂げ、将来的に、さらに革新的で持続可能な商品の発売に向けた準備を整えました」と発表していた

2024年後半には、Pow.Bioとの提携で、主要酵素の力価が1300%増加するなど、精密発酵で一定の成果が発表されていた

今回買収を行ったFoodYoung Labsは、スイスのバレルナに1,500平方メートルの施設を有し、スナック、バー、チョコレート、スプレッド、焼き菓子、冷凍食品を開発し、ZAZ、Kakoo、Bonnapなどの自社ブランドも有する食品メーカー。試作品製造・パイロット製造・ブランド戦略・パッケージデザイン・市場導入支援など受託開発・製造も手掛けている

AgFunderによれば、「Melody」の製造拠点は現在のカリフォルニアからFoodYoung Labsのバレルナの施設へ移され、将来的には再びアメリカに拠点を戻す構想だという。

部分売却が示唆する今後のシナリオ

出典:MeliBio

今回の買収の詳細は公開されていないが、MeliBioの置かれた経営状況や技術選別に一定の意図がうかがえる。

Mandich氏はAgFunderの取材において、2024年が「個人的に最も困難な年だった」と振り返っている。市場環境の厳しさを背景に、スタートアップには時間が必要である一方、市場はそれを許容しない現実があるとの見解を示している。

こうした発言からは、MeliBioが資金調達面で大きな課題を抱えていたことがうかがえる。

譲渡による対価や報酬の詳細は明らかにされていないが、今回の買収は、精密発酵技術に経営・人的リソースを集中させるために、収益実績のある第1世代技術とブランドを手放し、第2世代技術の実装に向けて、資金を確保する「選択と集中」の戦略だった可能性がある。

一方で、買収側のFoodYoung Labsが、市場投入や規制ハードルが高い第2世代技術をあえて取得対象から除外した可能性も考えられる。

いずれにせよ、第2世代技術がMeliBio側に残っていることは確かであり、現時点では未定ながら、今後たとえばスピンアウトや新会社設立、ライセンス供与、追加売却、パートナー企業との共同開発といった複数のシナリオが想定される。

上記をふまえると、MeliBioにとって買収は成果であり到達点であると同時に、新たな局面に移行したことを示す。Foovoとしては今後1年以内に精密発酵技術をめぐり、どのような動きがあるかを注視したい。

Foovoでは、精密発酵ハチミツ技術の展開で今後考えられる可能性について、Mandich氏に問い合わせをしており、回答が得られれば、追加情報をお伝えする。

 

※本記事は、プレスリリースおよびAgFunderの報道をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:MeliBio

 

関連記事

  1. ミツバチを使わない「本物のハチミツ」を開発する米MeliBio
  2. 2024年のフードテックを振り返る:小売進出した培養肉、精密発酵…
  3. カカオフリーのチョコレートを開発する英WNWNが約7.6億円を調…
  4. 原料メーカーが動き始めた代替カカオ──CSM Ingredien…
  5. 英WNWNがカカオフリーチョコレートのB2B販売を開始
  6. ごぼうから生まれたカカオ不使用の代替チョコ「ゴボーチェ」実食レビ…
  7. 【万博フードテックガイド】──2025大阪・関西万博の注目のフー…
  8. 米パーフェクトデイ、精密発酵による甘味タンパク質開発で市場参入か…

おすすめ記事

スイスのCatchfree、微細藻類と植物タンパク質から代替エビを開発

スイスのスタートアップ企業Catchfreeは、微細藻類と植物成分を使用した代替…

Motif FoodWorks、分子農業でヘムを開発するためパートナーシップを拡大

アメリカ、ボストンを拠点とするフードテック企業Motif FoodWorksは、…

Nature’s Fyndの微生物発酵によるタンパク質「Fy」が米国FDAよりGRAS認証を取得

微生物発酵により代替タンパク質を開発するNature’s Fyndが、米国の食品…

培養フォアグラを開発する仏Gourmey、EUで初めて培養肉の承認申請を提出

2024/8/2追記・修正フランスの培養肉企業Gourmeyが今月、EU…

仏Nutriearth、ミールワーム由来ビタミンD3の商用工場をフランスで開設|輸入依存からの脱却へ

出典:Nutriearth2025年11月4日更新フランスのNutriearthは先月2…

デンマークのセブンイレブン、Endless Food Coのビール粕由来代替チョコを使ったクッキーを限定販売|日本でもビール粕利用の開発事例

カカオ価格の高騰が続く中、代替カカオに関するニュースが増えている。最近で…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

精密発酵ミニレポート発売のお知らせ

最新記事

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(12/02 16:20時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(12/02 03:00時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(12/02 06:34時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(12/02 22:21時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(12/02 14:20時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(12/02 01:39時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP