代替プロテイン

Vowの培養ウズラ、豪州・NZで承認──FSANZ「食品基準コード改正239号」で細胞性食品を正式収載

 

オーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ)は6月18日、食品基準コード改正239号(Amendment No. 239)を公布し、オーストラリア企業Vowの培養ウズラ肉を「新規食品」として収載した

VowがFSANZに2023年1月に申請書を提出してから約2年半弱。ついに、Vowの培養ウズラをオーストラリアおよびニュージーランドでの販売するための最後のハードルが解消された。

FSANZは2025年3月26日に安全性評価を完了し、同製品を承認。4月7日にはその決定を食品閣僚会議へ通知した。この会議で再審査が要求されなければ、法的効力を持つこととなっていた。その後、約2ヵ月を経て、今回の最終承認に至った。

Vowによると、シドニーで生産された培養ウズラは今後数週間で、オーストラリアのバー、レストランで提供される予定となる。

Vow、3市場で販売認可を取得

Foovo作成

オーストラリア・ニュージーランドでの承認は、先月末のWildType培養サーモン解禁に続く快挙となる。

培養肉はこれにより、シンガポールアメリカイスラエル香港イギリス(ペットのみ)、オーストラリア・ニュージーランドで市場に開かれた。実際にヒト向けに販売が実現した地域は、アメリカ(鶏肉サーモン)、シンガポール(鶏肉ウズラ肉)、香港(ウズラ肉)となる。

注目したい点として、Vowは初承認からわずか1年数ヵ月で3市場で販売可能な状態に到達し、現時点で3市場で販売できる唯一の企業であることだ。

細胞性食品の導入を支援するための改正239号

食品基準コード改正239号(PDFはこちら)では2つの新基準が設けられ、細胞性食品全般の枠組みを規定するとともに、Vowの培養ウズラ肉が新たに追加されたリスト(Schedule 25A)に収載された。

食品基準コード改正239号(Amendment No. 239)

├─新基準 1.5.4 (Cell-cultured foods の定義/表示/販売条件等)

├─リスト Schedule 25A (承認された細胞性食品リスト&販売条件)

├─ Consequential Amendments  (食品基準コードの修正履歴)

└─新基準 3.4.1  (細胞性食品の加工における食品安全要件)

 

1.5.4Cell-cultured foodsには細胞性食品の定義、販売許可条件、特殊用途食品への使用禁止、ラベル表示(cell-cultured、cell-cultivatedを使用する)などが記載されている。

承認された細胞性食品および細胞株は、Schedule 25Aの「Permitted cell-cultured foods」、「Assessed cell lines」のリストにそれぞれ記載される。リストには現在、今回の培養ウズラのみ記載があり、単品として直接小売での販売は認めていないものの、原料として他の食品と組み合わせた最終製品としての小売販売は認められている

また、細胞性食品の加工における食品安全要件を定めた「Standard 3.4.1」も新たに追加された。

FSANZはこれらの新基準について、「培養ウズラや将来の細胞性食品の導入を支援するため、ラベル表示、製造、販売に関する明確な要件を定める新基準を制定した」としている

シンガポールでの提携レストランは2ヵ月で倍増

シンガポールでVowの培養ウズラを提供中のレストラン(2025年6月19日時点)2ヵ月で2倍以上に増えた(こちら)。 出典:Vow

Vowは2024年4月にシンガポール、同年11月に香港で培養ウズラを提供しており、ついに自国市場での販売が認められた。

シンガポールでは段階的に提供レストランを拡大。Foovoの調査では今年4月の段階では7軒のレストランでの提供だったが、2ヵ月で15軒と2倍以上増えている

オーストラリア政府は「産業成長プログラム(Industry Growth Program)」を通じて、付加価値の高い資源、農業、漁業、再生可能エネルギー、医療科学などの分野を重点投資分野に設定している。同プログラムでは今年2月、オーストラリアの培養肉スタートアップMagic Valleyが支援対象に選出された。今回の培養ウズラの承認は、この成長シナリオを後押しする材料となる。

今後、Vowに続き、オーストラリア・ニュージーランドで申請を行う企業が増加するとみられる。最初に培養肉が認められたシンガポールではすでに申請が集中し、承認審査に遅延が生じている現状もあり、オーストラリア・ニュージーランドが次の主要な認可拠点となる可能性もある。

 

※本記事は、FSANZ官報情報をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Vow

 

関連記事

  1. 日本の培養肉市場に明確なルールを:JACAが提言、情報集約の窓口…
  2. 精密発酵:8ヵ月にわたる企業・政府動向の全記録【Foovo独自調…
  3. インテグリカルチャーが培養フォアグラの開発に成功、試食を実施
  4. GOOD Meatがシンガポールで培養鶏肉の販売を一時停止、再開…
  5. 動物を殺さずにコラーゲン・ゼラチンを開発するJellatechが…
  6. 国際イスラーム法学アカデミー、第26回総会で「培養肉は条件付きで…
  7. 杏子の種から植物ミルクを開発するKern Tecが約19億円を調…
  8. オランダのFarmless、約7.5億円を調達し農地不要のタンパ…

おすすめ記事

南米を代表するチリのフードテック企業NotCo、シェイク・シャック創業者ダニエル・マイヤー氏から支援を受ける

アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏から支援を受けるチリの代替ミルク企業NotCoが…

Yali Bioが植物由来の培養脂肪生産のためにシードラウンドで約4.5億円を調達

カリフォルニアを拠点として植物代替肉や乳製品向けにデザインした脂肪の生産に取り組…

ドイツのBluu Seafoodと中国のCellXが「細胞農業を現実のものとする」ために協業

ドイツの培養魚企業Bluu Seafoodと中国の培養肉企業CellXは今月、持…

韓国のINTAKEが約13億円を調達、精密発酵と海藻由来の代替タンパクでグローバル展開へ

微生物発酵による代替タンパク質でアメリカ進出を目指す韓国のフードテック企業INT…

植物の葉緑体を活用して成長因子を開発するBright Biotechが約4億円を調達

分子農業で培養肉用の成長因子を開発する英Bright Biotechはシードラウ…

モサミートはいかにしてFBSを使わずに培養牛肉を生産したのか?研究者が論文を発表

オランダの培養肉スタートアップ企業モサミートは今月13日、ウシ胎児血清(FBS)…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(07/11 15:27時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(07/12 01:27時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(07/12 05:24時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(07/11 21:30時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(07/11 13:30時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(07/12 00:37時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP