写真提供:吉和美和氏
本記事は、エトワール国際知的財産事務所の弁理士・吉和美和氏による寄稿文です。
ここ3年ほど、フードテック分野について知財を中心に色々と情報を追ってきたが、日本にいるとなかなか肝心の、自分自身で新たな技術が用いられた食品を経験するという機会を得ることができず、もやもやとすることが多かった。
そうしたところ、ついに培養肉を自分の目で見て、しかも培養肉を焼いた香りを体験できるというチャンスを得ることができた。
現在日に日に人気が上昇している関西万博内にある、ヘルスケアパビリオンのリボーンステージで2025年7月8日に開かれた、「CULTIVATED MEAT JOURNEY 2025 ~知る、感じる、考える。培養肉が創る未来の食~」というイベントに、日本細胞農業協会(CAIC)理事の岡田健成氏から声をかけてもらい、参加をすることとなったのである。
なお、このイベントの様子は、NHKでもニュースとして取り上げられており、話題となっていたようである。
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20250708/2000095134.html
今回のイベントは、大阪ヘルスケアパビリオンの中で、培養肉の実物展示と、家庭用ミートメーカーのコンセプトモデルを公開している、培養肉未来創造コンソーシアムによって開催がされた(培養肉未来創造コンソーシアムの詳細については、下記の記事を参照されたい)。
https://foodtech-japan.com/2025/04/13/banpaku/
私が参加した第3回目のセッションにおいては、本コンソーシアム代表である、大阪大学大学院工学研究科の松﨑典弥教授と、国際連合食糧農業機関(FAO)の武内真佐美氏によるトークセッションを中心に、実際にステージの観覧席にいる参加者の中から、培養肉の香りを体験したい人を10名ほど募り、ステージに上がって培養肉を焼き始めるところから間近で見てもらう、という構成となっていた。
また、イベント中、リアルタイムで参加者にアンケート調査が行われ、培養肉というものを知っていたか、培養肉を実際に食べてみたいか、培養肉について気になる点(安全性、風味など)はなにか、といった、かなり多岐にわたる質問に参加者がリアルタイムで回答し、その結果が壇上で映し出されるという、双方向型の内容となっていて、予めある程度培養肉について知識をつけていた私であっても、とても楽しめるイベント内容となっていた。
そして当然私も壇上に上がって香りを体験するメンバーに名乗りを上げ、ついに生まれて初めて自分の目で培養肉というものを見て、さらにはその培養肉が目の前でいい音を立てて焼かれ、その香りを体験するというときがやってきた。
ここからはあくまで個人的な感想として読んでいただきたいが、実際に焼かれるサンプルとしてみた培養肉は、若干本物の肉と比べると、その薄い形状からか、人工的な感じがした。とはいえ、写真にもあるように、白い脂肪部分もはっきりと確認をすることができ、今自分の目の前にある牛肉は、細胞を出発点として一から作られたものだと考えると、非常に感慨深いものがあった。

実際に焼かれる前の培養牛肉 写真提供:吉和美和氏
そして肝心の香りはというと、もしこれがブラインドテストだったとしたら、おそらく本物の牛肉だと回答をした自信があるレベルであった。牛肉の焼かれた香りという意味では本当に全く違和感のない、すなわち本物の牛肉が焼かれたときの香りとほぼ同等の香りだと感じた。
ちなみに下の写真はイベント後、実際に触ったりできる培養牛肉のサンプルで、焼かれるサンプルとして見た培養肉よりももう少し厚みがあり、形状的にもより本物に近いと個人的には感じた。

イベントの後、一般向けに公開されていた培養牛肉 写真提供:吉和美和氏
ちなみにこの培養牛肉のサンプルのそばに立っていたスタッフの方に、培養肉でも腐るのか?と聞いてみたところ、製造工程が厳密に管理された環境下にあり、普通の肉よりも細菌の数などが少なくなるので、普通の肉よりは腐りにくく、日持ちもするとの回答であった。
それにしても印象的だったのは、ヘルスケアパビリオンからちょうど出てきた人など、一般の方も興味津々でこのイベントを覗いていたことである。
また、外国人の方が、なぜこの肉を食べられないのか、とスタッフの方に英語で尋ねていたりして、万博会場でこのようなイベントを開催したことで、日本人のみならず、海外の人にも培養肉について興味を持ってもらうきっかけになっていると感じた。今回のこのような、一般の方も普通に間近に培養肉を見て感じられるイベントは、個人的には素晴らしい試みだと思った。
著者:吉田美和氏(エトワール国際知的財産事務所弁理士)
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