大阪大学、島津製作所、シグマクシスは「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向けた協業を発表した。また、大阪大学と島津製作所は、「3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉の自動生産装置の開発」で共同研究を行う契約を締結した。
3Dバイオプリント技術を研究する大阪大学、自動前処理装置などの分析計測機器を開発する島津製作所、フードテック領域で国内外企業とのネットワーク・知見を有するコンサルファームのシグマクシスが協業し、3Dバイオプリント技術の開発を加速させ、同技術の社会実装を推進することで、環境・食糧問題の解決に貢献していく。
培養肉については2025年の大阪・関西万博での提供を目指し、最初は100グラム1万円を超える高級肉をターゲットにする。
3Dプリンターでカスタマイズ可能な霜降り肉を開発
動物の細胞を体外で培養して生産される培養肉は、複雑な構造化が不要なミンチ肉の開発から始まった。ステーキ肉など立体構造の開発を進める企業もあるが、これまで報告されている培養肉の多くは、筋線維のみで構成されるミンチ構造であり、複雑な構造の再現は困難とされる。
大阪大学の松崎典弥教授の研究グループは、筋肉・脂肪・血管という異なる線維組織を3Dプリントで作製し、それらを束ねて統合する、3Dバイオプリント技術を開発した。これにより霜降り肉の再現だけでなく、脂肪や筋成分の微妙な調節も可能になった。
今後、大阪大学と島津製作所は、培養肉の生産を自動化する装置を共同で開発し、これまで手作業で行っていた過程を自動化させ、「世界中どこでも培養肉が生産できる」社会を目指す。
培養肉の自動化を目指す
島津製作所は、筋肉・脂肪・血管の繊維をステーキ様に束ねる工程を自動化する装置と、培養肉の味・食感など「美味しさ」や栄養分などの「機能性」を分析する装置を開発する。同社は近年、AIやロボット技術を活用し、細胞培養工程を自動化・効率化する装置や技術の開発に力を入れており、これらの知見・技術・製品をいかして培養肉生産の自動化を目指す。
シグマクシスはスマートキッチンサミットの開催など、国内のフードテックを牽引するコンサルティングファームであり、国内外の企業との幅広いネットワークを有する。シグマクシスはテーマ毎の取り組みを策定し、必要な周辺技術やノウハウを有する企業との連携などを支援する。
松崎教授は記者会見で「自動化することで世界中どこでも培養肉を作れるようになると期待している。味や栄養などもみなさんの好みにカスタマイズして食べていただけるようにしていけたらと思う」とコメントした。
世界の培養肉業界の動向
動物を殺さずに食肉を生産する培養肉は、広大な土地、飼料、大量の水を必要とせず、排出する温室効果ガスも削減できることから、環境問題と食糧危機を解決する手段として注目されている。
現在、培養肉の販売を認めている唯一の国はシンガポールとなる。2020年12月に米イート・ジャストが販売を実現してから、これに続く上市の事例は報告されていない。
しかし、昨年には複数の企業が培養肉の生産施設を開設し、なかには100グラムあたり2ドル未満まで生産コストの削減に成功したイスラエル企業も登場するなど、培養肉業界は研究開発フェーズから社会実装へと着実に前進している。
大阪大学のように3Dプリンターを活用し、培養肉・植物肉を開発する企業も海外には登場している。
その中でも注目されるのが、3Dバイオプリンタ―で100グラム以上の培養ステーキ肉の生産に成功したMeaTech(イスラエル)と、テクニオン発の組織工学技術を使い世界で最初に培養リブロース肉の生産に成功したアレフ・ファームズ(イスラエル)だ。
MeaTechは今月、年内に培養肉の実証プラントをベルギーに建設し、来年操業を開始することを発表した。培養肉の装置や技術のライセンス供与で動物肉の代替を目指すMeaTechは、培養肉上市に先立ち、植物肉に組み込む培養油脂の市販化を目指している。
三菱商事、タイ・ユニオンなど大手企業と提携するアレフ・ファームズは、培養肉の年内販売に先立ち、パイロット施設を今年夏までに本格稼働することを先月発表した。同社は今後2年以内に大規模生産施設の建設も計画している。
昨年、培養肉企業には過去最高の14億ドルと、前年比3倍以上の資金が投じられた。
今月には11社の培養肉企業によるコンソーシアム「APAC Society for Cellular Agriculture(APAC-SCA)」が発足した。APAC-SCAには日本のインテグリカルチャーも参画しており、政策立案者に向けた認識・理解の強化を図ろうという動きが国・企業を超えて進められている。
参考記事
大阪大学大学院工学研究科、島津製作所、シグマクシス、 3Dバイオプリント技術で協業 ~技術開発を加速し、環境・食糧・健康など社会課題の解決を目指す~
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アイキャッチ画像の出典:大阪大学