イスラエルで新たに培養シーフード企業E-FISHientが設立された。
イスラエルの投資ファンドBioMeat Foodtechとイスラエル農務省傘下の政府機関Volcani Instituteが共同で設立した。Volcani Instituteはイスラエルの国立農業研究センターであり、国の農業研究とイノベーションをささえる200名の科学者を有し、イスラエルアグテックの原動力ともいえる組織だ。
E-FISHient設立にあたりVolcani Instituteは10%の株式を保有し、設備や人材を提供し、非動物由来血清により培養ティラピアを開発、生産するE-FISHientを支援する。
ティラピア養殖がはらむ危険性
ティラピアは種類が多く、雑食で養殖コストが低く、水質に対して適応力が高いなど飼育のしやすさから広く養殖が行われてきた。
しかし、ティラピアは特に侵略的な魚とされ、一度定着すると取り除くのは非常に難しい。その積極的な繁殖性・摂食性は在来の魚や植物にとって脅威となり、生態系にとって危険だとみなされている。ニカラグアにあるアポヨ湖では、ナイルティラピアの侵入により魚の餌となるチャラという水生植物が消失するなど、ナイルティラピアの生態系に及ぼす影響が問題視されている。
国内では熊本県江津湖でもナイルティラピアが異常に生育定着しており、要注意外来生物とされている。
対策の緩い養殖によって生物多様性が脅かされる可能性はあり、ガーナでは違法な養殖場開設による外来ティラピアの侵入が問題視されている。
ティラピアは中国、インドネシアのほか、エジプト、ウガンダ、ナイジェリア、ガーナなどアフリカで多く生産されている。養殖事業では厳格なバイオセキュリティ対策や、閉鎖型封じ込めシステムなどの導入により魚の逃亡リスクを軽減することはできるが、必ずしもすべての国が経済的に実現可能なわけではない。
また、タイでは調査に応じたすべてのティラピア養殖者が抗生物質を日常的に使用しているという報告もあり、過密な飼育環境で病気を予防するための抗生物質の乱用も懸念される。
E-FISHientの公式サイトは確認されていないが、同社はこうしたティラピア養殖がもたらす生態系への悪影響を減らし、よりクリーンで健康的なティラピアの供給を目指して設立されたと考えられる。
E-FISHientは当面はティラピアの開発に注力するが、ほかの種の開発にも着手しているという。
国が培養肉企業をバックアップするイスラエル
イスラエルの代替タンパク質開発は加速している。
2021年、イスラエルの代替タンパク質部門には6億2300万ドル(約780億円)が投入され、前年比5倍以上の記録的な成長を遂げた(上図)。代替タンパク質の中でも特に培養タンパク質への投資が多く(上図青色)、2021年には世界の培養肉企業に投入された資金の36%以上がイスラエル企業に向けられている。
イスラエル経済産業省傘下のイスラエル・イノベーション庁は今年、培養肉コンソーシアムに1800万ドル(約23億円)の助成金を授与するなど、国をあげて培養肉産業の育成に力をいれている。
E-FISHientはこうしたなか、昨年イスラエルで設立された培養シーフード4社のうちの1社となる。
同じく昨年設立されたWanda Fishは、細胞農業をリードするタフツ大学の魚細胞培養における知的財産の独占的使用権を獲得している。Wanda Fishはイスラエル・イノベーション庁の支援を受けて設立された。
イスラエルではE-FISHient、Wanda Fishのように政府機関が培養肉スタートアップの設立を後押しする事例が増えており、食糧危機・環境負荷の解決が望まれる中、この動きは今後も加速していくと思われる。
参考記事
New Cultivated Seafood Startup E-FISHient Launched in Collab with Israeli Ministry of Agriculture
BioMeat And The Volcani Institute Launch E-FISHient To Develop Cultivated Tilapia
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アイキャッチ画像の出典:E-FISHient