細胞培養による培養牛肉を開発する米SCiFi Foodsは、最初の商品として培養バーガー肉の上市を目指している。同社は先月、シリーズAラウンドでの2200万ドル(約30億円)の資金調達と併せ、社名をArtemysFoodsからSCiFi Foodsに変更した。
バイオリアクターで浮遊培養できる鶏などの細胞株を開発する培養肉企業は他にもあるが、SCiFi Foodsは牛細胞でマイクロキャリアを使わない浮遊培養を実現した最初の企業になると主張している。
同社CEOのJoshua March氏によると、バイオリアクターでマイクロキャリアを使って細胞を増やす場合、細胞密度による制限を受ける。そのため、マイクロキャリアを使う生産プロセスでは、商用規模のスケールアップは難しいとSCiFi Foodsは考えている。
培養ハイブリッド肉による早期上市を目指す
SCiFi Foodsは、培養肉開発にあたり2つの主要な戦略を採用している。培養肉と植物肉をブレンドすることと、遺伝子編集技術CRISPRを活用して増殖しやすい牛細胞株を開発することだ。
SCiFi Foodsは、第一世代として市場に出る培養肉は単独商品ではなく、植物成分とブレンドすることで、肉らしさを向上させる「原料」としての位置づけになると考えているようだ。
この「原料」は調理すれば肉のような風味や匂いがし、少量でも植物肉バーガーを変身させるのに十分な効果を発揮すると考えている。March氏は「培養肉細胞は、肉の風味と食体験に関与する脂肪をタンパク質にもたらします」とコメントしている。
一部のスタートアップが取り組んでいる足場や3Dプリンターを使った培養肉のスケールアップについて、SCiFi Foodsは懐疑的な見方をしている。風味をもたらす要素として培養肉を活用することで、構造化された培養肉の開発に必要な組織工学、3Dプリンティング、足場など時間とコストのかかる工程を回避できると考えている。
遺伝子編集技術を使った細胞株開発
同社はまた、細胞株工学のアプローチに注力しており、CRISPR技術を使用して、より大規模により低コストで成長できるよう細胞のふるまいを変化させているという。
「CRISPRのようなツールを使用して、DNAの1つの塩基対を削除したり、遺伝子をオフにしたりなど、非常に小さな変更を加えることができます。たいていの場合、シンプルな方法で細胞の振る舞いが変化し、牛ではなく大きなバイオリアクターで成長しやすくできます」(Joshua March氏)
Foodnavigator-Usaの報道によると、SCiFi FoodsはCRISPR技術を使用することで、接着細胞培養と比較して、コストを1000分の1に削減できるという。
同社は年末までに建設開始予定のパイロット工場で、植物肉80%強と培養肉20%弱をブレンドした培養バーガーを10ドル未満の価格で生産できると試算している。年に100万~200万個のバーガーを生産できる見込みで、さらにスケールアップすればバーガー1個あたり1ドルを実現できるとみている。
年内にパイロット工場の建設を開始
SCiFi Foodsは2020年のシードラウンドでの資金調達以来、コスト削減のための細胞株の改良に取り組んできた。最近、サンフランシスコのイーストベイにある16,000平方フィート(約1486㎡)の研究開発施設に移転している(上記写真)。
先月には、世界的なベンチャーキャピタルAndreessen Horowitz (略称a16z)が主導するシリーズAラウンドで約30億円を調達した。
同社は培養バーガーの販売認可の取得には数年かかると見ており、具体的なスケジュールは発表していない。上市には規制当局の承認のほか、生産施設の建設も必要となるため、年内にパイロット工場の建設を開始する。
これまで培養肉の販売を認可した唯一の国はシンガポールとなり、アメリカでは培養肉の販売は認められていない。
現在、アメリカ上市を目指す培養肉企業には、Upside Foods、GOOD Meat、フューチャーミートなどがいるが、鶏肉に焦点をあてている企業が多い(GOOD Meatは牛肉も対象としている)。Orbillion Bioは牛肉を開発しているが、高級肉をターゲットとしているため、SCiFi Foodsが目指す購買層とは異なるかもしれない。
この点で、SCiFi Foodsが費用対効果の高い方法で培養バーガーの大量生産を早期に実現すれば、他社との差別化につながり、牛肉消費量の高いアメリカで優位な展開を図れる可能性がある。
参考記事
BREAKING: SCiFi Foods bags $22m in a16z-led round to bring hybrid alt beef burgers to market faster
A16z backs SCiFi Foods as it develops cell-cultivated burger
関連記事
アイキャッチ画像の出典:SCiFi Foods