日本ハムは、培養肉の生産過程で必要となる培養液の主成分を、動物血清から食品成分に置き換えることに成功した。
これにあわせ、鶏の細胞から食品成分を使って作られた3.5cm × 2.5cm、厚さ5mmの培養肉を発表した(上記画像)。
日本ハム、動物血清の代わりに食品成分で培養肉を作製
培養肉の生産では培養液が必要となる。培養液は細胞が成長するための栄養源となるもので、一般に基礎培地、動物血清、成長因子から構成される。
培養肉の開発が始まった10年程前は、動物血清を使うことが多かった。しかし、動物血清の中でも一般的に使用されるウシ胎児血清(FBS)は、高価で汚染リスク、品質のばらつきがあるほか、ウシ胎児から採取するため、培養肉生産の利点である動物福祉に反するものとして倫理的な問題が指摘されてきた。
こうした理由から、現在は動物血清を使用しない開発へと舵を切る企業が大部分を占める。
日本ハムは、牛、鶏から採取した筋肉細胞の培養で、動物血清を添加した培養液、動物血清を添加していない培養液、食品成分を添加した培養液の3つで、細胞の増殖を比較した。結果、動物血清未添加の培養液では細胞の増殖が見られなかったのに対し、食品成分を添加した群では、動物血清を添加した培養液とほぼ同等の増殖効果を確認できた(上グラフ)。
また、牛と鶏とで異なる結果が得られたことから、食品成分がもたらす増殖効果は畜産種によって異なることも確認されたという。
日本ハムはこの食品成分について特許出願中であり、食品成分の詳細は公開されていない。
食品成分で動物血清とほぼ同等の増殖結果を得たことで、これまでコスト高の要因となっていた動物血清を安価で安定的に調達可能な食品に代替できることとなる。同社は、この成果は培養肉の社会実装を前進させるものだとしている。
培養肉に参入する国内企業が増加、河野大臣も視察
世界人口の増加に伴い、2030年にはタンパク質が足りなくなるプロテインクライシスが到来すると言われている。動物の細胞を培養して作る培養肉は、環境負荷を軽減した新しい代替タンパク質として国内外で研究が進められている。
日本ハムは2019年より、培養肉スタートアップのインテグリカルチャーと動物細胞の大量培養に向けた基盤技術の共同開発を開始した。2017年から培養肉の共同研究を開始した日清食品ホールディングスと東京大学は3月、食べられる培養肉の作製に国内で初めて成功した。
先月には、水産業界最大手マルハニチロと水産練製品業界トップクラスのシェアを誇る一正蒲鉾が、インテグリカルチャーと培養魚肉の共同研究開始を発表するなど、大手食品メーカーの参入が目立つ。
これまでに培養肉の販売を認可した唯一の国はシンガポールとなる。アメリカのイート・ジャストが2020年12月にシンガポールで、世界で初めて培養肉を販売したが、第2の認可事例はまだ報告されていない。
消費者及び食品安全担当大臣として、東大の生産技術研究所に培養肉の視察。右は竹内教授。できた肉は駒場牛、それとも竹内牛? pic.twitter.com/x10kgnuUgy
— 河野太郎 (@konotarogomame) September 28, 2022
しかし、アメリカでも一部の企業は規制当局の認可を待つ状態にあり、今年から来年にかけて、シンガポール以外の国で培養肉が認可される可能性はある。最近では、欧米、オセアニアなどで培養肉工場を開設する企業も増えている。
国内でも今年、法整備を目指した議員連盟が発足したほか、河野食品安全担当大臣が先月、東大・日清食品ホールディングスが作製した培養肉を視察するなど、社会実装に向けた動きがみられる。
代替タンパク質の普及を促進する非営利団体Good Food Institute(GFI)によると、培養肉・培養魚を開発する企業には昨年、過去最高となる約14億ドルの投資が行われた。
参考記事
培養液の主成分である動物血清を食品で代替することに成功 ~培養肉の商用化実現に向けて前進~
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アイキャッチ画像の出典:日本ハム