精密発酵によるカゼインタンパク質を開発する米New Cultureは今月、1回あたり25,000枚のピザに相当するチーズを製造できる規模まで発酵プロセスのスケールアップに成功したことを発表した。
この大量生産により、製品コストの80%削減が可能となる。New Cultureは今後の見通しとして、3年以内に精密発酵由来のモッツアレラチーズが従来品と同等価格になり、年間1,400万枚以上のチーズに相当するカゼインを生産できるようになると予想している。
プレスリリースによると、精密発酵により開発されたカゼインがこれほどの規模で生産されたのは世界初だという。スケールアップに成功したことは、アニマルフリーなモッツアレラチーズを全米のレストランに供給するNew Cultureの目標実現に向けた重要な一歩となる。
「動物を使わずに本物のチーズを大量に作れる時代へ」
動物由来のチーズ生産は、大量の水とエネルギーを必要とする。Science Directに発表された査読済み論文によると、チーズ製造に伴うエネルギー消費はイギリスの食品分野で2番目に高いと言われている。また、チーズは牛肉、羊肉に次いで温室効果ガスの排出量が3番目に多い動物製品とされる。
精密発酵によるチーズは、従来のチーズ生産で必要な資源のごく一部を必要とするため、環境負荷の軽減が期待されている。
New Cultureの共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のMatt Gibson氏は、「今回の成果はNew Cultureと食品業界にとって重要な瞬間です。動物を一切使わずに本物のチーズを大量に生産できる時代に入ろうとしています」と述べている。
Rethink Xの予想
ワシントンポストの過去の報道によると、アメリカでは年間で30億枚のピザが消費されている。
年間1,400万枚は全米のピザ需要を満たすにはまだギャップがあるものの、今後3年以内に従来チーズと同等価格を実現できる可能性が発表されたことは、海外シンクタンクのRethink Xが2019年に発表した予想が現実になりつつあることを意味している。
Rethink Xはレポートの中で、2025年~2026年頃に精密発酵タンパク質の生産コストと、牛由来の乳タンパク質の生産コストが逆転すると予想していた。
当面の目標はGRAS自己認証
2018年に設立されたNew Cultureは、2021年にADMを含む投資家から約28億円を調達した。翌年にはADMとの提携を発表し、韓国のCJ第一製糖からも出資を受けるなど、大手との連携を拡大してきた。
今年6月には精密発酵カゼインを使用したモッツアレラチーズを発表するとともに、ロサンゼルスのレストランで試食会を実施した。
2024年の発売に向けた目下の目標は、GRAS自己認証の取得だろう。GRAS自己認証を取得後、New CultureはNancy Silverton氏のロサンゼルスにあるレストラン「Pizzeria Mozza」で最初に提供した後、全米のピザレストランへ提供を拡大していく予定だ。
乳タンパク質ホエイのβ-ラクトグロブリン認可に続き、精密発酵によるカゼイン上市が近づいてきた。
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アイキャッチ画像の出典:New Culture