シンガポールで唯一、ハラール認証を発行する権限を有するシンガポール・イスラーム評議会(MUIS)のファトワ委員会が、特定の条件を満たせば、培養肉の消費はハラールとして認められることを発表した。
ハラールとは、イスラム法で行って良いこと、食べてもの良いものを指す。培養肉が特定の条件下でハラールと認定されたことは、イスラム教徒にとって培養肉が一つの選択肢となることを意味する。
イスラム教はキリスト教に次ぎ世界で2番目に大きな宗教であり、イスラム教徒は世界人口の約24%を占めるといわれている。培養肉がハラールとして認められることは、培養肉の社会普及を促進させるうえで重要な意味を持つ。
このニュースは、米イート・ジャストの培養肉部門GOOD Meatが昨年9月、著名なイスラム学者らから、特定の条件を満たせば培養肉はハラールになる可能性があるという助言を得たとの発表に続くものとなる。
シンガポール・イスラーム評議会が培養肉をハラールと認定
GFI APACが昨年実施した業界調査によると、培養肉メーカーの87%がハラール要件への準拠が事業における優先事項だと回答していた。
GFI APACでマネージング・ディレクターを務めるMirte Gosker氏は、「世界中で10億人以上の人々がハラール食品の基準を遵守しています。培養肉が新しいものからスタンダードへと躍進するには、この認証を取得するための現実的なルートがあることが極めて重要です」と述べている。
シンガポールでは2020年12月に培養肉の販売が認められた。
GFIによると東南アジアの約40%がイスラム教徒となる。シンガポールのイスラム教徒は2022年の時点でシンガポール全人口の約15%を占めている。培養肉のハラール認証は、世界でいち早く培養肉を認めたシンガポールが、フードテック先進国としてさらに世界を牽引していくための重要なステップとなる。
培養肉がハラールとなるための条件
具体的なハラール要件として、培養肉製品の細胞株がイスラム教徒が食べることが許された動物種に由来していること(鶏肉はOK、豚肉はNG)、培地に非ハラール成分が含まれないこと、最終製品は適切な食品安全規制機関の承認を得ること、などがあげられている。
この条件は、サウジアラビアの学者らがGOOD Meatに提示した条件とほぼ一致している。
現在市販されている培養肉でハラール認証を受けたものはまだないが、今回の決定は、宗教認証を取得するためのガイドラインを望んでいた食品企業、特に、中東や東南アジアなど、イスラム教徒が多い地域に培養肉を供給したいと考えている企業にとって朗報だ。
現に、中東6か国の2,000人以上の消費者を対象とした世論調査では、培養肉がハラールであり、従来肉と同等の味、価格であるならば、回答者の大部分が従来肉から培養肉に切り替えると回答していたという。
もう一つの宗教認証:コーシャ認証は?
宗教認証から連想されるものに、コーシャがある。コーシャとはユダヤ教徒が食べてもよいと認められている食品のこと。
コーシャ認証においても、培養肉業界では近年進展がある。
2023年1月、イスラエルの首席ラビDavid Baruch Lau氏がアレフ・ファームズの培養肉がコーシャであると認めた。この判定は、アレフ・ファームズが同社生産施設や個々の製品でコーシャ認証を取得する道を開くものとなった。
昨年9月には、同じくイスラエルの培養肉企業スーパーミートも、培養鶏肉について世界最大のコーシャ認証機関であるOU Kosherからコーシャ認証を取得した。
世界のユダヤ人人口は約1400万人とされ、イスラム教徒の数には及ばない。しかし、宗教における培養肉の認証は、世界の高まるタンパク質需要と気候変動に対応するうえで不可欠な培養肉の社会実装に向けた、重要な促進剤となる。
今回のMUISの決定を受け、今後、中東・東南アジアなどイスラム教徒の多い地域での培養肉導入が加速すると予想される。
参考記事
BREAKING: Singapore’s Islamic council says cultivated meat can be halal
Leading Shariah Scholars Rule Cultivated Meat Can Be Halal
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アイキャッチ画像の出典:GOOD Meat