アメリカ・イリノイ州は今月、精密発酵によるバイオものづくりを推進するiFAB Tech Hubに6億8000万ドル(約1030億円)を投じることを発表した。
イリノイ発酵・農業バイオものづくりテックハブ(iFAB Tech Hub)は、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の統合バイオプロセシング研究 (IBRL) と30の主要パートナーが主導するコンソーシアム。
地域のイノベーションと成長を加速させるためにアメリカ商務省経済開発局(EDA)が指定した31のテックハブの1つに選ばれている。
iFAB Tech Hubへの多額の資金拠出には、地元の農業の強みを活用し、イリノイ州をバイオものづくり企業の目的地として位置づけ、精密発酵をはじめとするバイオイノベーションを研究開発から本格的な製造へと移行させ、経済発展を促進する狙いがある。
農業の優位性をいかし、精密発酵の主導エリアに
イリノイ州は大豆で米国1位、トウモロコシでは米国2位の生産量を誇る。バイオものづくりでは、トウモロコシや大豆などの作物を原料に、微生物を活用して高価値な食品、繊維、などに変換する。
アメリカ屈指のバイオプロセスを有するIBRLが位置するイリノイ州は、バイオものづくりの原料となるトウモロコシ、大豆が豊富な地域であるため、この地域をバイオものづくりのハブにするという戦略は理にかなっている。
精密発酵はトウモロコシをエタノールに変換するだけでなく、遺伝子組換え微生物を活用することで、食用タンパク質、繊維、ポリマー、油脂、化粧品、着色料など、ものづくりを根本から変える可能性を秘めている。
iFAB Tech Hubへの多額の投資は、より多くの精密発酵企業の誘致につながると共に、精密発酵業界の成長、経済を促進し、新しい雇用創出につながるものとなる。
JB Pritzkerイリノイ州知事は、イリノイ州が今後10年でバイオものづくり・精密発酵における世界のリーダーになり、経済発展と高収入の雇用が生まれると見込んでいる。
「20年以内に米国化学品の3割をバイオ由来に」
バイオものづくりで課題とされるのが、インフラの不足だ。多くのスタートアップ企業が、アメリカ国内に適切な施設がないため、欧州にスケールアップの場を移したといわれている。
パイロット・実証規模で試験する機会が限られていることがイリノイ州における産業拡大の足かせになっているとの考えから、iFAB Tech Hubは、実証試験用に1万―7万5,000L、商用化に向けて10万L以上のパイプラインを構築していくとしている。
また、iFAB Tech Hubの本拠地となるIBRLでは業界の需要に応えるため、拡張計画を進めている。この計画では、IBRL近郊に約3250㎡(35,000平方フィート)の施設を建設し、パイロットサービスの対象を年間20社から60社に拡大することを予定している。
iFAB Tech Hubのメンバーには、バイオテック企業と既存CMOのマッチングから施設建設までサポートする米Synonym、さまざまな企業のスケールアップを支援する米Boston Bioprocess、さらに、2022年4月にイリノイ州ディケーターでの大豆タンパク質生産強化に約3億ドルを投じたADMなどが参画している。
また戦略パートナーとして、代替パーム油を開発するC16 Biosciences、イリノイ州の培養肉企業Clever Carnivoreなどが参加している。
イリノイ州がバイオものづくりを促進する背景には、2022年に発表されたバイオテクノロジー産業の国内回帰を促す大統領令も関係しているだろう。アメリカ政府は昨年3月に、大統領令に対応するため、20年以内にアメリカの化学品需要の少なくとも30%を持続可能なバイオものづくりで製造するという新たな目標を発表した。
地理的・農業的優位性をいかせるiFAB Tech Hubへの投資はまさに、バイオテクノロジー産業の国内回帰を促進するものとなる。
国内でも、これまでの化石資源を原料とした製造プロセスを置き換える「持続可能なものづくり」として、微生物発酵によるバイオものづくりを推進するために2023年からの10年間で計3,000億円の予算が計上されている。
参考記事
Illinois Invests $680M in Biotech Hub to Promote Precision Fermentation
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アイキャッチ画像の出典:JB Pritzker州知事 Instagram