シンガポールの培養肉企業Ants Innovateは14日、シンガポール企業Esco Asterと共同で、ハイブリッド培養豚脂肪「Cell Essence」を使用した初の試食会を開催した。
「Cell Essence」は細胞由来成分であるため、同社はシンガポール食品庁(SFA)の許可を得て試食会を開催した。
同社は細胞から肉の風味と香りを抽出する技術を使用して、製品に肉の風味・香りをもたらす「Cell Essence」を開発。「Cell Essence」はハイブリッド培養肉を製造するために使用する成分となる。
Ants Innovateは「Cell Essence」の詳細について一般公開していないが、試食会に参加したAPAC Society for Cellular AgricultureのCalisa Lim氏によると、「Cell Essence」は豚の濃厚で香ばしいエッセンスを模倣したハイブリッド培養豚脂肪だという。
試食会では「Cell Essence」を使用したミートボール、小籠包、串焼きが提供された。これらの料理には「Cell Essence」のほか、Ants Innovateが独自に開発した「SMILE Meat cuts(Scalable Micro-Imprinted Lapis Expansion)」、植物成分「NuoMi Vegan Base」が使用された。
Lim氏は、「細胞の割合が3%未満と少ないにも関わらず、従来の豚肉が持つ甘味、塩味、うま味を十分に味わうことができました」とリンクトインでコメントしている。
肉の風味、色合いをもたらす成分
シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)のスピンオフベンチャーであるAnts Innovateは、ビーガン、フレキシタリアン、肉好きの人々に魅力的な代替肉製品を作り出すことで、動物を犠牲にしない世界を目指して2020年に設立された。
同社は自社について、ホールカット培養肉に取り組む東南アジア初の企業だと述べている。
2022年にはパイロット工場を開設し、「NuoMi」を使用した試食会の開催、「NuoMi」の商用化を実現した。
同社は「NuoMi」を使用した代替肉の素、ビーガンの素、バックワの素、肉まんの素、春巻きの素などをオンライン販売している。原料は製品によって若干異なるが、エンドウ豆、ジャックフルーツ、キノコ、小麦、ヒマワリ油などを使用しており、共通するのは大豆タンパク質を含まないことである。一部の製品では卵を使用している。
今回の試食会では、植物由来の「NuoMi Vegan Base」に細胞由来の「Cell Essence」を使用した代替肉料理を披露することで、「Cell Essence」が料理にもたらす可能性を示す狙いがあった。
同社は「Cell Essence」について、肉らしい風味に加え、肉らしい色合いを制御する成分だとも言及しているため、同成分には培養豚脂肪だけでなく、色味をもたらす成分も配合している可能性がある。
植物肉の風味やジューシーさを改善するために培養脂肪を開発するスタートアップは増えている。Foovoの調査では、モサミートなどの培養肉と並行して培養脂肪開発も進める企業を含めると、世界には約20社が確認されている。
日本人研究者杉井重紀氏がシンガポールで立ち上げたImpacFatは魚の培養脂肪を開発しており、2022年12月にシンガポールで試食会を開催した。中国初の培養肉企業であるJoes Future Foodは昨年、500Lバイオリアクターで培養豚脂肪の生産拡大に成功したことを発表した。
培養脂肪に取り組む企業はほかにも米Mission Barns、ドイツのCultimate Foods、英Hoxton Farmsなど多く確認されており、Ants Innovateも新たに加わったこととなる。
参考記事
The Good Food Insitute APAC LinkedIn
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アイキャッチ画像の出典:Ants Innovate