ビール酵母から代替タンパク質を開発するドイツのProteinDistilleryは先月21日、ドイツ、ハイルブロンのKnorrCampusに建設する新工場(Protein Competence Center)の起工式を行った。
この工場は2025年4月に稼働を開始し、年間最大200トンのビール酵母由来タンパク質「Prew:tein」の生産を目指す。
起工式にはジェム・オズデミル食料・農業大臣やハイルブロン市長のハリー・メルゲル氏、国会議員のゾーイ・マイヤー氏などが出席した。
ProteinDistilleryの共同創業者であるクリストフ・ピーター氏は、「1,000平方メートル未満の敷地で、鶏卵2,000万個に相当するタンパク質を生産します」と述べた。
ProteinDistillery、ビール酵母由来タンパク質の工場建設を開始
ProteinDistilleryはビール製造の副産物でありながら十分に活用されていないビール酵母をバイオマス発酵技術で再利用し、動物由来のタンパク質に匹敵する特性を備えた「Prew:tein」を開発した。
100%ビーガンでオフホワイト色のこのタンパク質は、含有量が75%と高く、低濃度でゲル化するほか、卵のように不可逆的なゲル化も可能で、室温で完全に溶解するという。
そのため、肉、卵、焼き菓子、乳製品などの代替素材として幅広い用途が期待されている。
「Prew:tein」はハイルブロンで製造されるが、ビール酵母などの原材料は約50km離れた都市のシュトゥットガルトから調達している。
起工式では、地元シュトゥットガルトのレストラン「vhy!」が「Prew:tein」を使用して作ったマウルタッシェ(パスタ生地にひき肉などを詰めたドイツ料理)が提供され、地産地消の取り組みが体現された(下記写真)。
ProteinDistilleryによると、このマウルタッシェは、「Prew:tein」を使用した最初の消費者向け製品であり、「vhy!」は自らのレストランに加え、DaimlerやPorscheなど地元企業の社員食堂にも植物性料理として提供している。同社によれば、「Prew:tein」の使用により、生産の迅速化、コスト削減につながるという。
脂肪や旨味成分の開発も
EUでは1997年5月15日以前にヒトが大量に消費した歴史のない食品は新規食品に分類される。精密発酵、培養肉、菌糸体などは新規食品に分類されるが、ProteinDistilleryによると、ビール酵母はEUで安全に使用された歴史があるため、新規食品には該当しない。
ProteinDistilleryの現在の主力製品は「Prew:tein」だが、従来の脂肪よりも健康的だという「Prew:fat」、ビール酵母由来の旨味成分「Prew:taste」も開発している。
「Prew:fat」の詳細は不明だが、「Prew:taste」は、クリーンラベル志向に応えたい食品メーカー向けの風味増強剤、ペットフードの味と栄養を高める持続可能な原料としての用途を想定している。
「Prew:taste」はバイオマス発酵ではなく、酵母細胞を独自プロセスで分解させ、放出された細胞の内容物を精製し、アミノ酸やミネラルが詰まった抽出物を得ている。
2020年の論文によると、ビール酵母は栄養価が高い一方で、主に動物飼料として利用されており、食品利用にはプリン濃度が課題とされている。
しかし、ビール酵母に関する論文は、2014年には1,060件だった論文数が2023年には2,200件以上に増え、2024年も12月中旬時点で2,100件を超えるなど、関心の高まりがうかがえる。
最近ではビール醸造の別の副産物であるビール粕を活用した代替チョコレートの事例も報じられた。こうしたビール醸造の副産物のアップサイクルは、国内における代替タンパク質生産においても参考となる取り組みと言えるだろう。
参考記事(プレスリリース)
Groundbreaking Ceremony in Heilbronn
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アイキャッチ画像の出典:ProteinDistillery