精密発酵でカゼインを開発するフランスのスタートアップStanding Ovationは今月、フランスを拠点とする欧州味の素食品(Ajinomoto Foods Europe)との長期的な戦略的提携を発表した。
本提携は、フランス、ネル(Nesle)にある欧州味の素食品のバイオ製造施設で、Standing Ovationの精密発酵技術によるカゼイン「Advanced Casein」を生産することを目的としている。
Standing Ovationは2022年12月、大手チーズメーカーのBelグループと独占パートナーシップを締結しており、今回の味の素との提携はこれに続くものとなる。
Standing Ovation、精密発酵カゼインの製造で味の素と提携
味の素は高度な発酵プロセスを活用したアミノ酸や特殊原料の製造で知られる大手食品メーカーであり、欧州味の素食品はその海外法人の1つとなる。
プレスリリースによると、欧州味の素食品のネル工場は地元の砂糖原料を活用し、二酸化炭素排出量を最小限に抑える設計がなされている。同工場には10万リットル(100㎥)を超える規模のバイオリアクターが設置されており、2022年以降、精密発酵分野におけるCDMOパートナーとしての地位を確立している。
2020年設立のStanding Ovationは、精密発酵でカゼインを開発している。カゼインは牛乳の主要な乳タンパク質であり、チーズ、アイスクリーム、ヨーグルトなどの製造で使用される。
Standing Ovationにとって、この提携は特許取得済みの精密発酵技術と欧州味の素食品の製造能力を融合させる機会となり、動物に依存しない持続可能なカゼイン生産を実現する重要な一歩となる。
また、欧州味の素食品の同工場は、Standing Ovationの主要顧客である大手乳業メーカーに近接するフランス北部にあり、地元の原材料と再生可能エネルギーを使用し、持続可能な製造方法に取り組んでいる。
代替タンパク質企業との提携を強化する味の素、NEDO事業にも採択
Standing Ovationは2025年にアメリカで精密発酵カゼインの上市を目指している。
これまでに米New Culture、オーストリアのFermifyが、アメリカで精密発酵カゼインのGRAS自己認証を取得しているものの、上市はまだ確認されていない。
Foovoの調査では、味の素が食品分野における精密発酵スタートアップ企業と提携するのはShiruに続き今回が2例目であり、バイオマス発酵を含む微生物発酵企業ではソーラーフーズ、Shiruに続く3例目となる。
味の素は昨年12月、「環境保護と食品供給の安定化を実現する精密発酵技術の開発」というテーマでNEDOのバイオものづくり革命推進事業に採択された。
同社は、アミノ酸発酵の分野で培った知見と技術力を活かし、ちとせ研究所と協力して、微生物の開発やAI技術を活用した開発期間の短縮、ライフサイクルアセスメントの実施に取り組む。これにより、社会実装を目指して、目的のタンパク質を効率的に生産する技術開発を進めている。
味の素は欧州、アジア、北米、南米、アフリカに広がる海外法人を有している。
Standing Ovationなどの精密発酵企業との提携は、味の素が長年培ってきたアミノ酸発酵の知見や技術を最大限にいかせるものである。持続可能な食品生産への需要の高まりを受け、同様の提携事例は今後も増えていく可能性がある。
参考記事
STANDING OVATION AND AJINOMOTO FOODS EUROPE ANNOUNCE STRATEGIC PARTNERSHIP
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アイキャッチ画像の出典:Standing Ovation