出典:Mars
カカオ豆の高騰が続くなか、米食品大手のMarsが新たな一手を打った。
スニッカーズ、M&Mなどの菓子・ペットケア事業を主力とするMarsは2025年8月6日、カカオの研究開発を加速するため、米Pairwise(ペアワイズ)のCRISPR技術を適用したゲノム編集プラットフォーム「Fulcrum」の使用ライセンスを取得したと発表した。
Marsはこの契約により、Pairwiseが提供するSHARC酵素を含むCRISPR技術を活用し、カカオの改良に取り組む。背景には、気候変動、病害、環境ストレスといった要因によってカカオ生産が世界的に脅かされている現状がある。Marsでは、これらの課題に対処しながら、生産性の向上を図る方針だ。
CRISPRは、DNAの特定箇所を正確に切断するゲノム編集技術である。
ガイドRNAに導かれた“はさみ役”のCas9が標的遺伝子を切り、細胞の修復過程を利用して遺伝子機能の停止やピンポイントな書き換えができる。
従来の育種よりも、狙いが明確で改良までの時間を短縮できる技術とされ、植物では病害などへの耐性強化や品質の改良に活用が進む。
Marsが今回ライセンスを取得した「Fulcrum」は、ゲノム編集ツール、酵素、形質ライブラリで構成され、植物の潜在能力を解き放つ精密な改変が可能となる。特性を活性化・不活性化するだけでなく、照明の調光器のように微妙な調整を加えることが可能とされており、カカオのように課題を多く抱える作物においても、短期間での形質開発が期待される。

出典:Pairwise
Marsで植物科学部門長を務めるCarl Jones氏は「当社では、CRISPRには作物を改良し、世界のサプライチェーンを支え、強化する可能性があると考えています。私たちの焦点は、気候変動、病害の圧力、資源制約に作物がより適応できるよう、植物科学におけるCRISPR研究を透明性があり責任ある方法で進めることです」と述べている。
なお、Marsがゲノム編集を導入するのは今回が初めてではない。2018年には、カリフォルニア大学バークレー校と共に、気候変動に強いカカオ品種の開発に着手していた。
公式サイトによると、各大学と協力し、カカオのほか、ピーナッツ、トウモロコシ、ミントにおけるCRISPR活用に関する研究を実施している。
今回のPairwiseとのライセンス契約は、そうした基礎研究が実用化に向けて前進したことを示すものとなる。
一方、カカオショックを受けた食品大手の動きとしては、代替カカオ導入を進める企業もみられる。Marsはこれまでに精密発酵ホエイの導入実績があるものの、現時点で代替カカオの動きは確認できておらず、カカオ作物の改良によって「カカオショック」への耐性を高め、小規模農家を支援する路線にあると言える。
Pairwiseは農産物の開発にゲノム編集技術を活用するスタートアップで、2017年にCRISPRの発明者らが共同創業した。
同社はこれまでに、トゲのない種なしブラックベリー、鼻をつく匂いと辛味をなくしたからし菜などを開発してきた。最近では、20ヵ国の小規模農家に向けて改良作物品種の開発を加速するため、国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)もPairwiseとライセンス契約を締結している。
※本記事は、プレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像の出典:Mars