代替プロテイン

イスラエル企業Accellta、細胞性乳脂肪で米国市場進出を狙う

出典:Accellta

イスラエルのスタートアップ企業Accellta(アクセルタ)は、幹細胞技術を用いた細胞性乳脂肪培養乳脂肪)の開発に取り組んでいる。2023年12月には、細胞性乳脂肪の大量生産に向けて、イスラエル・イノベーション庁からの資金提供を受けた

Green Queenの報道によれば、現在、800万ドル(約11億円)の資金調達ラウンドを実施中で、調達後は製造パートナーを通じてスケールアップを図る考えだ。最初の市場としてアメリカをターゲットに、FDAへの申請準備を進めている。

同社によれば、細胞性乳脂肪は、代替乳製品の多くに使用されている植物油脂への依存度を低減し、乳製品に期待される濃厚でクリーミーな風味や食感をもたらすとしている

公式サイトによれば、Accelltaの細胞性乳脂肪は家畜の飼育を伴わないため、水・土地の使用量削減および二酸化炭素の排出量削減が見込めるほか、目的製品に応じて脂肪含有量や質感、風味の調整が可能で、クリーンラベルな原料として既存の生産ラインにシームレスに統合できるという。

出典:Accellta

Accelltaはライセンス供与技術移転を基本に、企業の生産ラインへの組み込みを伴走支援するとしており、バターチーズミルククリームなどへの細胞性脂肪の使用を想定している。

細胞培養によるミルクや母乳を開発する企業は少ないながらも、OpaliaWilkなど複数確認されている。Accelltaが他社と異なるのは、乳製品分野において「乳脂肪」に特化していることだろう。細胞性ミルクに分類される企業の中でも、「乳脂肪」という特にニッチな領域に照準をあてている。

Green Queenの報道によれば、同社の細胞性乳脂肪は、従来の乳脂肪や代替タンパク質とのブレンドが可能で、例えば細胞性脂肪を20%含むハイブリッドバターなどを試作している。ライセンス供与や技術移転だけでなく、細胞性脂肪をB2B供給するために自社工場の建設計画も進めているという。

出典:Accellta

2012年に設立されたAccelltaは、マイクロキャリア、足場、遺伝子組換えを必要としない、多能性幹細胞の大量培養技術を開発している。ES細胞、iPS細胞に関して豊富な経験を有し、フードテック分野以外では再生医療バイオ医薬品にもその技術を応用している。2018年2月には日本の日立化成と幹細胞用培地の製法、幹細胞の培養方法に関する技術ライセンス契約を締結した

2022年12月には誰もが細胞性食肉(培養肉)を利用できるようにするため、Mealiways設立。Mealiwaysは2年間の成果として今年夏、足場やマイクロキャリアを使用しない懸濁培養により、食肉と脂肪など細胞性成分を20%含む細胞性バーガーの試食会を開催した

細胞性脂肪のプロジェクトはその延長線上にあるものと言え、2023年12月にイスラエル・イノベーション庁からの支援を経て、現在、アメリカ市場をターゲットに研究開発を加速させている。

OECD(経済協力開発機構)の報告によると、世界の牛乳生産量は2024年に約9億5,000万トンに達し、そのうち約3割がバター、チーズ、ホエイ粉末などの加工製品に使用される。

バター価格は2024年半ばに過去最高を記録し、それに牽引され、乳製品価格指数も上昇した。乳脂肪は、アイスクリーム、生クリーム、バター、クリームチーズ、植物性乳製品、チョコレートなど多様な製品に使用されており、製品のコク、まろやかな口当たりに寄与するだけでなく、認知症の予防効果が報告される食肉にはない短鎖脂肪酸が乳脂肪に存在するなど、健康上のメリット報告されている

こうした特性を備えた乳脂肪を細胞培養で生み出すことができれば、幅広い食品への応用だけでなく、健康上のメリットを付加価値として訴求できる可能性もある。Accelltaがミルクではなく、あえて乳脂肪に特化する背景には、こうした戦略的な意義があると考えられる。

 

※本記事は、公式サイト海外メディアの第一報をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Accellta

 

関連記事

  1. イート・ジャストの植物性代替卵「Just Egg」、イギリスでま…
  2. Oobliが精密発酵モネリンでGRAS認証を取得|ブラゼインに続…
  3. 米The Live Green Co、精密発酵によるヒト母乳脂肪…
  4. ネスレがFuture Meatと協業して培養肉参入に向けて準備
  5. 伝統的なチーズ製法で植物チーズを開発するデンマーク企業FÆRM
  6. 中国Dicosが米イート・ジャストの代替卵をメニューに追加、50…
  7. BlueNalu、培養マグロの米国先行上市を目指す|Nomad …
  8. ビヨンドミートが代替鶏肉ビヨンドチキンテンダーを北米で発売

おすすめ記事

VenHubが開発する完全自律型のスマートコンビニ

国内でも無人決済コンビニの導入が進むなど、小売の省人化・省力化が進んでいる。数年…

チェコの培養肉企業Mewery、チェコ政府から約3200万円の助成金を獲得

微細藻類を活用して培養豚肉を開発するチェコのスタートアップ企業Meweryが、チ…

Future Fieldsが約15億円を調達、ショウジョウバエで培養肉、医薬品のバイオものづくりを加速

カナダ企業Future Fieldsは培養肉や医薬品業界向けの成長因子の生産に、…

CSIROが支援するEden Brewが約6.4億円を調達、精密発酵によるアイスクリーム開発を加速

精密発酵でアニマルフリーな乳タンパク質を開発するオーストラリア企業Eden Br…

子どもが培養肉を知るための絵本のクラファンがスタート

動物を殺さずに、動物から採取した細胞を培養して生産される動物肉を培養肉という。…

砂糖削減に取り組むBetter Juice、ドイツにパイロット施設の設置を発表

砂糖削減テックに取り組むイスラエルのBetter Juiceは、ドイツにパイロッ…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

最新記事

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(09/02 15:49時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(09/03 02:04時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(09/03 05:47時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(09/02 21:49時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,980円(09/02 13:44時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(09/03 01:04時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP