スペイン、マドリードを拠点とする乳製品メーカー・パスカル(Calidad Pascual)は、乳製品業界における細胞農業技術のために世界初となるインキュベーションプログラムMylkcubatorを開始した。
このプログラムは、パスカルのベンチャー部門Pascual Innoventuresが運営するもので、細胞農業により乳製品を開発するスタートアップを支援するものとなる。
具体的には、細胞培養、微生物発酵による乳製品開発におけるソリューションを開発するスタートアップを支援する。
Mylkcubatorは6ヶ月のプログラムで、最大10社のスタートアップが選抜される。
参加企業はメンターからアドバイスを受けるほか、パスカルの研究開発施設を使用してプロトタイプの開発、試験、スケールアップを行う。欧州一流の研究開発施設へはオンライン、オフラインどこからでもアクセスできる。
このプログラムは、世界的なフードテックアクセラレーターであるEatable Adventuresと技術パートナーのCNTAからの支援を受けている。
本来であれば動物から収穫される産物を、特定の細胞を培養することにより生産する方法を「細胞農業」という。
Mylkcubatorが対象とする細胞農業は、細胞培養によるもの、微生物発酵によるものに大きく分類される。
細胞培養ミルクは、バイオリアクターなど、生体内環境を模倣した外部環境において乳腺細胞を成長させることで得られる。
このプロセスでは細胞、培地、成長因子など原料・栄養だけでなく、プロセスを最適化するための機械学習、バイオリアクターなどが必要となり、こうした関連技術を開発する企業も本プログラムの参加対象となる。
微生物発酵による乳製品は、乳タンパク質を作るようプログラムされた微生物が作り手となって、必要なタンパク質を分泌する。最終産物からは微生物は取り除かれ、生成された乳タンパク質のみが残る。
上記いずれに共通することは、分子的に同等な乳タンパク質を、動物を使わずに、少ない土地、低エネルギー消費な方法で製造できることである。
市場には少数ながらも参入プレーヤーが登場しており、細胞培養で代替ミルクを開発するBiomilq、TurtleTree Labsや、微生物発酵で代替乳製品を開発するRemilk、Change Foods、パーフェクトデイなどがいる。
この中で市販化しているのはパーフェクトデイのみとなる。
特に後者の3社は、微生物発酵の中でも精密発酵と呼ばれる技術を使っている。
RehinkXのレポートによると、アメリカでは2035年までに、家畜牛製品に対する需要は80~90%減ると予想される。
同レポートは2025年頃には、精密発酵による乳タンパク質の生産コストが家畜牛による生産コストと同等レベルになり、2030年には大きく逆転することを報告している。
これにより、2030年までに米国の家畜牛数が半減するとも指摘している。
Pascual Innoventuresによる新規プログラムは、この流れを後押しするものとなる。
Mylkcubatorへ参加を希望する企業は、公式サイトから申し込むことができる。
参考記事
A Spanish Dairy Company Has Launched a Startup Incubator to Help Cultured Milk Companies
関連記事
アイキャッチ画像の出典:Mylkcubator