出典:Uncommon Bio
代替タンパク質分野で、再編の動きが強まっている。
資金環境の悪化を背景に、試薬を開発していた英CellRevや、ビール粕を活用した代替肉の米Planetarians、ガス発酵スタートアップのNovonutrientsなどが事業停止を発表した。
これらの事例は「事業停止」と報じられているが、実際には技術資産や知的財産の売却を模索しており、他社に引き継がれることで、研究開発が継続される可能性を残している。その点で、一律に後退とは断じられない業界再編の局面と位置づけられる。
今回取り上げるUncommon Bio(以下、Uncommon/旧称Higher Steaks)の動きも、選別が進む中での一局面であり、同社はこの決断について「無視できないほど大きなチャンスだ」と述べた。
Uncommon Bio、細胞性食肉技術を2社へ売却

出典:Uncommon
2025年8月、創業初期から知られる細胞性食品(培養肉)企業Uncommonが、細胞性食肉プラットフォームの売却を発表した。同社は今月、複数の異なる種類のRNAを安全かつ正確、手頃な価格で一度に送達することを可能にする、多糖類ベースのデリバリーシステムを活用した新会社を設立する予定だ。
買い手はオランダのMeatableとオーストラリアのVowの2社。
MeatableはプレスリリースでUncommonの「細胞性食肉プラットフォーム」を取得したと発表。対象は主要技術、複数の知的財産、細胞株、専門スタッフ。
具体的には、Uncommonの非GMO型mRNAリプログラミング技術とsaRNA分化技術を、Meatableの「opti-ox」技術に統合させる。
一方、Vowの取得した技術の詳細は公表されていない。
Meatable は、Uncommonの技術を取り込むことで、鶏肉や羊肉などの製品開発を加速させ、複数地域での承認申請を進める考えを示している。
これは会社そのものの買収ではなく、技術資産の取得色が濃い。Uncommonは売却発表と同時に、複雑な疾患に取り組むためのプログラム可能なRNA治療薬に注力することを発表した。細胞性食品分野からは実質的に撤退となるが、閉鎖ではなく、技術・知財・人材が次の担い手に引き継がれるという再編のかたちとなる。
UncommonのCEO(最高経営責任者)であるBenjamina Bollag氏は、「私たちのデリバリーシステムがin vitroだけでなくin vivoでも機能することを目の当たりにしたとき、治療薬開発に注力するチャンスは無視できないほど大きく、私たちは大胆な決断を下しました」と述べ、技術を選別し、治療薬に注力することにチャンスを見出したことに言及している。
早期に社会実装できる分野からの参入相次ぐ

出典:Uncommon
細胞性食品業界全体を見ても、投資環境は逆風となっている。2021年をピークに投資額は2022年から3年連続で減少し、アメリカでは7つの州(フロリダ、アラバマ、ミシシッピ、モンタナ、インディアナ、ネブラスカ、テキサス)で販売禁止が導入されるなど不確実性が増している。
こうした中、単一技術に賭けるより、多様な手段を使い分ける「マルチプラットフォーム」戦略は合理的といえる。Meatableは豚肉・牛肉で取り組んできた実績を持ち、今回の買収により複数の畜産種へと展開を強化することが可能になる。
同社は特に、従来のGMO戦略に加え、Uncommon技術の取得による非GMO戦略の追加が、取引における「最大の魅力」だとAgFunderのインタビューで述べている。
細胞性食肉は現在、世界の複数市場で認可され、現時点ではシンガポール(GOOD Meat、Vow)、オーストラリア(Vow)、アメリカ(Wildtype)の3市場で販売が継続されている。
Uncommonが治療薬にシフトしたように、細胞性食品分野では非食品分野から注力する動きが複数みられる。国内のインテグリカルチャーも、細胞培養技術を活用したタマゴ由来の培養上清原料「セラメント」を2021年からスキンケア向けに商品化しており、化粧品分野において細胞農業を現実のものにしている。
細胞性シーフードでも化粧品分野から参入する動きが複数見られ、技術を早期に社会実装できる分野から事業化に舵を切る動きが確認されている。
今回のUncommonの決断は、事業の勝ち筋として治療薬に商機を見出した戦略的シフトであり、今後も同様のシフトを選ぶ企業が増える可能性がある。
※本記事は、UncommonとMeatableのプレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像の出典:Uncommon Bio