気候変動に対する問題意識はあっても、普段の生活で自分の行動が気候変動にどのような影響を及ぼしているか把握することは難しい。
アイルランド、ダブリンを拠点とするスタートアップEvoccoはそれを可能とするアプリを開発した。
Evoccoを使うと、スーパーで買った食料品が気候変動にどのような影響があるかが可視化される。
ユーザーは食料品レシートの写真をアプリで撮るだけで、購入したもののフットプリントが算出される。
このアプリはレシートに印刷されたテキストを読み込み、機械学習により食品を識別。
店舗の場所に基づいて、食品の種類、重量、産地を確認し、データベースと照合することでフットプリントを計算する。
Evoccoによって、購入したどの商品が環境への負荷が大きいか可視化され、次回の買い物に役立てることができるようになる。
個人の活動が気候変動に与える影響を可視化するEvocco
EvoccoのアプリはiOS、アンドロイドに対応しており、現在、イギリスとアイルランドで無料でダウンロードできる。
ユーザーが買い物レシートの写真をアプリで撮ると、機械学習によってリストにある商品を同定、各商品の種類、重量、産地に基づいて気候変動への影響を計算する。
Evoccoのデータベースは、スイスにあるライフサイクルアセスメント(LCA)企業Eaternityによるもの。
レシートから商品に関する十分な情報がわからない場合は、類似の商品と、商品がどこから来た可能性が高いかを決める輸出入統計などのデータに基づいて見積もりを算出する。
畜産肉は生産に広大な土地、水を必要とし、牛のメタンなどにより排出される温室効果ガスが多い。
陸上の約30%、農業用地の約70%が家畜の生産に使われており、畜産の活動全体で排出される温室効果ガス排出量は18%に達するとされる。
このため、植物性食品は動物性食品よりも排出される温室効果ガスが少なく、プラントベースの食生活に注目が集まっている。
ただ、Evoccoは動物性か植物性かだけを要素として計算するのではない。
季節ものの野菜か、輸送時に冷蔵保存が必要かなど、非生産的な要素も算出に組み込んでいる。
そのため、植物性食品であっても、輸送時に冷蔵が必要なものと、常温保存が可能なものでは、フットプリントは異なることになる。
Evoccoは各商品の環境への負荷を数値化するほか、購入した食品の栄養価も表示してくれる。
地球にも自分の身体にも優しい選択を手助けしてくれるアプリといえるし、環境問題を「他人事」にさせないアプリともいえる。
機械学習専門の2名の若者によるスタートアップ
アイルランド、ダブリンを拠点とするEvoccoは2017年に設立されたスタートアップ企業。
欧州の名門ダブリン大学トリニティカレッジで機械学習を学んだHugh Weldon氏とAhmad Mu’azzam氏が卒業後まもなく設立した。
Evoccoは2020年末にリリースされてからすでに1000回以上ダウンロードされている。
「私たちが生きる時代において気候危機は最大の課題だと思っています。
この解決に積極的な役割を発揮するため、自分の専門キャリアをささげようと決意しました」(Ahmad Mu’azzam氏)
世界的には気候変動に対する意識が高まっている。
IBMの調査によると、消費者の57%が環境への負荷を減らすために、購入習慣を変えたいと考えているという。Boston Consulting Groupの別の調査では、消費者の95%が、個人の行動が気候変動への取り組みに役立つと信じているという結果が報告されている。
Evoccoのように個人の活動から気候変動へ取り組むのを手助けするツールはほかにもある。
Captureはユーザーに食事、移動やほかの要素について質問することで、月毎の二酸化炭素排出量を見積もる。ユーザーの銀行口座の履歴と連携してフットプリントを算出するYayzyやMy Carbon Actionもある。
B2B向けのデジタルツールも開発
Evoccoは個人向けのアプリのほかに、サプライチェーン全体での商品の気候変動への影響を追跡するデジタルツールを開発している。
このデジタルツールは食品小売業者、ECサイト、デリバリーアプリに販売するためのものとなる。
目的は、小売業者が気候変動に関する情報を消費者に直接提供するのを支援すると同時に、Evoccoが製品データを収集し、アプリを改良することにある。
このツールがECサイトに組み込まれると、決済時に気候への影響度(排出される二酸化炭素量、サステナビリティ指標など)がユーザーに表示されるほか、よりサステイナブルな商品を購入するヒントを提供する。
EvoccoのB2BツールがECサイトに導入されたら、レビューだけでなく、「環境への優しさ」が商品購入の新たな決め手になる。
Amazonなど大手ECサイトであれば、ユーザーの好みに関するデータに基づき、「あなたへのおすすめ」に環境に優しい商品が表示され、サステイナブルな食品の売上向上につながるだろう。
インタラクティブな広告ディスプレイを展開するCooler ScreensがEvoccoを導入する可能性も十分考えられる。
Evoccoは現在欧州2カ国で展開している個人向けアプリを、年内にはアメリカでリリースしたいと考えている。
参考記事
Evocco: This App Calculates Your Food Footprint With Your Grocery Store Receipts
An Irish startup can work out your carbon footprint from your grocery receipt
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アイキャッチ画像の出典:Foovo