オランダの培養肉企業モサミートが、培養脂肪用培地のコストダウン成功を発表した。
モサミートのブログによると、脂肪開発チームは動物成分を含まない脂肪細胞用の液体培地の開発に成功。培地の成分を最適化し、費用対効果のよいサプライヤーを選定することで、培養脂肪用培地のコストを65分の1に削減することに成功した。
この血清フリーな脂肪用培地の価格は明らかにされていないが、2年前のコストの1.52%にまで削減されている。
脂肪用培地の大幅コストダウンに成功
モサミートは世界で最初に培養肉ハンバーガーを開発した培養肉企業のパイオニア。
最初に発表されたハンバーガーが3500万円もしたのは、FBSという高価な血清を使用していたためだった。FBSは生まれていない子牛を使うため、動物を殺さない生産方法と言いながらも倫理的に問題とされる。
培養肉の開発では、栄養豊富な液体培地で細胞を培養し、成長させて筋肉組織や脂肪組織にする。細胞を成長させるための培地が高コストであることが、培養肉開発における主要課題となっている。
2019年、モサミートの培地開発チームは培地からFBSを除去することに成功。これにより、高コストの要因となっていた培地のコストを88分の1に削減した。
そして今回、培養脂肪用培地のコストを65分の1に削減することに成功した(下図)。
今回発表された内容によると、モサミートは培養肉だけでなく培養脂肪も開発している。脂肪は味、食感、口当たりを再現するうえで重要な要素となる。培養脂肪のアプリケーションには植物肉に組み込む選択肢もあるため、最近では脂肪に特化して開発するスタートアップが増えている。
モサミートが開発する培養脂肪が、自社の培養肉に組み込むためのものか、他社に原料として販売する予定であるかは不明だが、脂肪チームはすでに培養脂肪の試食会を社内で実施している。
この試食会では家畜脂肪と培養脂肪のブラインドテストを実施。試食したスタッフは「どちらがどちらかわからない」とコメントしている。
培養脂肪用培地のコストダウン発表について、共同創業者のPeter Verstrate氏は次のようにコメントしている。
「肉好きな方たちの期待に応える商品に向かう道のりで、さらに1つのタスクに確実に(完了済みという)チェックをつけることができました」(Peter Verstrate氏)
培養肉は次のフェーズへ
培養肉は次の局面に移行している。
昨年12月のイート・ジャストの快挙に続き、今年になってからすでに18社以上が資金調達を実施している。その中には、Mission Barns(約26億円)、Hoxton Farms(約3.9億円)など培養脂肪に特化したスタートアップも含まれる。
さらに、今年米国上場したイスラエルの培養肉企業MeaTechは、建設予定のパイロット工場で培養脂肪を生産することを発表。Avant Meats、Mission Barns、BlueNaluもパイロット工場建設を発表しているほか、Future Meatは生産コスト削減に再び成功し、アメリカ進出の準備を進めている。
MarketsandMarketsのレポートによると、培養肉市場は2025年に2億1400万ドル、2032年には5億9300万ドルになると予想される。
オックスフォード大学の研究論文によると、細胞を培養して作られる培養肉は畜産肉よりも、排出する温室効果ガスを78-96%削減でき、使用する土地・水は畜産肉と比べてそれぞれ99%、82-96%少なくすむ。
培養肉が普及すれば、家畜のための農業用地を確保するための森林伐採も不要となる。気候危機、集約畜産、飼育過程での抗生物質の乱用、感染症による大量の殺処分という現状を変える選択肢になりうる。人口増加に伴い将来懸念される食料危機を解決するソリューションにもなる。
今回の発表ではモサミートは具体的な商用化に向けたタイムラインについて言及していないが、これまでの報道によると、ヨーロッパ市場への投入を目指している。昨年の報道では、動物を全く使わない培地を使って良い結果を出したうえで、今年前半に承認申請を開始、2022年終わりまでに商用化したいとしていた。
参考記事
Milestone: Over 65x reduction in our fat medium cost
Mosa Meat Achieves an ‘Over 65x Reduction’ in Costs for Its Cultured Fat
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アイキャッチ画像の出典:モサミート