イギリスの培養肉スタートアップIvy Farmは、2023年までにイギリスの小売業者に培養ソーセージを販売することを目指している。
現在、世界には60社以上の培養肉企業が登場しており、Ivy Farmもそのリストに加わった。
同社ホームページによると、2022年に自社のレストランをオープンし、2023年までにイギリスの一部小売業者向けに培養肉を提供したいとしている。
2023年までに培養ソーセージを市販化
Ivy Farmは他社同様、動物から採取した細胞をバイオリアクターと呼ばれる大きなタンクの中で成長させる。
バイオリアクターには細胞が成長するための栄養が含まれ、植物が肥料で成長するように、細胞が筋肉や脂肪へと成長していく。
数個の細胞は2、3週間で数十億個ほどまで増殖する。Ivy Farm によると、これは肉1kgに相当する。
室内農場で水耕栽培により植物が成長していくように、培養肉も室内施設で、抗生物質を使うことなく製造されるため、人間に耐性菌が生じる恐れもない。
Ivy Farmはミンチ肉から着手する。
ミンチ肉からスタートするのは、食塩の過剰使用、製造工程の不透明さが指摘される加工肉の現状に、妥協なきオプションを提供したいと考えているため。
予定通りにいけば、2023年までにIvy Farmのミンチ肉を使用したクリーンなソーセージが市場に登場する。
農家・肉屋出身の創業者が立ち上げたIvy Farm
Ivy Farmの共同創業者ラス・タッカー氏(Russ Tucker)は、スーパーマーケットの経営コンサルタントとして働いていた時、食肉業界の持続可能性について疑問を持った。
より良い肉を、より良い方法で生産できないかと自問自答したタッカー氏は、母校であるオックスフォード大学へ戻り、Cathy Ye教授とチームを組み、Ivy Farmを設立する。
その背景には、自身が農家・肉屋の出身であり、この業界の水準をあげたいという想いがあった。
社名のIvyは、「生体外」を意味する「インビトロ(in vitro)」の略となっている。
「生体外」での食肉生産を示すIvyに、「農家」を示すFarmを組み合わせて社名とした。
オックスフォード大学のスピンオフベンチャーであるIvy Farmは、同大学から主要技術、シード資金の支援を受けている。
The Spoon誌によると、同社は自社技術を「ゲームチェンジャーになる」ものだとしている。
具体的には、独自足場技術を所有しており、これにより培養システムを中断することなく、低コストで細胞を連続して収穫することが可能となる。この技術はオックスフォード大学の技術であり、Ivy Farmにライセンス供与されている。
同社は現在、1600万ポンドを目標に資金調達を実施している。この資金で研究開発施設を構える予定だ。
12カ国で特許を出願中のIvy Farmは、短期・中期・長期的なビジネスモデルを考えている。
短期的には、独自技術を他社へライセンス供与、中期的には、細胞培養による筋肉、脂肪を原料として食品会社へ販売、長期的には自社の培養肉ブランドを構築する。
畜産の限界を解決する培養肉
イギリスで培養肉に取り組むのはIvy Farmのほかに、連続細胞培養技術を開発するCellulaREvolution、培養脂肪に特化して取り組むHoxton Farmsがいる。
イギリスに限らず、世界中で培養肉のスタートアップが増える背景には、畜産の限界が深く関係している。
今後30年間で世界人口が100億人近くに増加すると予測される中、肉に対する需要は2050年までに73%増えると見込まれる。
このためには畜産の規模を現在の2倍に拡大する必要があるが、畜産用地の拡大は森林破壊を伴い、気候危機に拍車をかけることになる。
また、近年増えている新規感染症の75%が動物由来であると科学者らは推定。
コロナウイルスも人獣共通感染症であり、家畜に代わる食料システムについて議論しないことは、今後発生するであろう未知の感染症について無策でいることに等しい。
こうしたことから、感染症のリスクを減らし、少ない土地と水で持続可能な形で生産できる培養肉が求められている。
これまでに培養肉の販売許可を取得したのは米イート・ジャストのみ、承認した国はシンガポールだけとなる。
しかし、アメリカ国内で年内に培養肉販売を目指す動きもあり、ひとたび承認されれば、イート・ジャストの快挙に続く事例は増えていくだろう。
参考記事
Full English: Ivy Farm Aims to Launch Cell-Based Sausages by 2023
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アイキャッチ画像の出典:Ivy Farm