フード3Dプリンターという言葉を聞いたことある人は少なくないだろう。
工業利用からスタートした3Dプリンターは今では、人工心臓、人工血管を作るための医療用から、家を建てる建築用、さらにはケーキのデコレーションに留まらず培養ステーキ肉、植物性サーモンを作る食品用まで広がりを見せている。
これらはいずれも、熱溶解や光造形など方式は異なるが、「出力した材料を(硬度の差はあれ)固定されたものにする」という点では共通している。
しかし、オーストリアのスタートアップPrint a Drinkは、3Dプリンティング技術の常識を壊す、新たな概念を市場にもたらした。
カクテルにデザインを出力する3Dプリンターを開発したのだ。
Print a Drinkの3Dプリンターは、厳密には3Dプリンティングロボットという方がふさわしい。
一見しただけでは、ロボットアームにしかみえない。ロボットアームの先端にはプリントヘッドが搭載されている。
プリントヘッドが下がり、先端のニードルがカクテルの中に入り、オイル状の食用液体をカクテルに注入する仕組みとなっている。
注入された液体がカクテル中で液状ビーズとして形を保持した状態で浮遊するには、アルコール濃度を40%未満にする必要がある。
したがって、ウオッカやウイスキーなどロックだと、表面にビーズが浮いた状態となるため、適用できない。
液体密度、温度、ロボットの動きを組み合わせると、10分間持続するデザインを作り出せるという。対象となるドリンクはアルコールに限らず、フルーツジュース、シロップ、水にもプリント可能。
Print a Drinkは、Benjamin Greimel氏の大学での研究プロジェクトから始まった。
これまでに2台製造しており、コロナウイルスが発生する前までは、特別なイベントや会議でドリンクにカスタマイズされたデザインを3Dプリントするなど活躍していた。
ロボットアームはKUKAのものを使用している。
同社のビジネスモデルは、装置のレンタルとなり、販売はしていない。
イベントにもよるが、1回のイベントで2500ドル~5000ドルで装置を貸し出している。
この方法は、3Dプリンターの現状と、Print a Drinkの装置の複雑性を考えると理にかなっている。
多くの人にとって3Dプリンターは市民権を得たテクノロジーではあるものの、実際に使ってみるとトラブルは多い。
現在、市場にある家庭用3Dプリンターを例にとっても、ボタン1つでいつでも問題なく出力できる装置とはいいがたく、修理・メンテナンスをする覚悟がなければ扱うのは難しい(私も何度もトラブルに遭遇した)。
トラブルを前提に家庭用3Dプリンターを使うのが正しい認識である今、Print a Drinkの装置を販売するのは現実的とはいえない。
デザインの作成、3Dデータの処理とアップロード、ノズルが詰まった時の対応、データ通りに出力されない可能性、ドリンクの調整など、修理・トラブル対応に手間と人員が必要になることを考えると、専門家ではない可能性が高い現場のスタッフが使う場合は、レンタルビジネスにするのが現実的といえる。
Print a Drinkは市場参入を進めるため、コーヒーメーカーほどの小さいタイプの装置を開発した。
使用にあたりトレーニングが必要なため、これは個人消費者向けではなく、ディズニーやヒルトンなど大手企業をターゲットとしている。
こうした大手企業に導入してもらい、特別なイベントやプロモーション用に使ってもらうことを想定している。
小型装置の最初の試作品は今月にリリースされる予定。
Print a Drinkのロボットが、ドリンクにデザインを施すのにかかる時間は1分。1回のイベントで数百のドリンクを提供できる。
3Dデザインを施されたドリンクだけでなく、ドリンクにデザインするプロセスそのものが余興となるため、エンターテイメント性は抜群といえる。デザインをカスタマイズして、ビーズの色を変えれば、強烈なプロモーションにもなるだろう。
参考記事
Print a Drink 3D Prints Designs Inside a Cocktail, Develops Smaller Machine for Corporations
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