イスラエルの植物分子農業スタートアップPoLoPoは今月、遺伝子組み換えジャガイモを使用して動物タンパク質を生産するSuperAAプラットフォームを発表した。
現在、同プラットフォームは温室規模で展開されており、卵白タンパク質のオボアルブミン(ovalbumin)とパタチン(ジャガイモに含まれるタンパク質)を生成している。Polopoはジャガイモの塊茎で標的アミノ酸を生成し、塊茎が十分に成長したら収穫して、タンパク質を抽出・乾燥させて粉末製品にする。
この発表は、昨年3月のプレシードラウンドでの資金調達に続くニュースとなる。
ジャガイモを活用して卵白タンパク質を開発するPoloPo
ジャガイモや大豆など植物を「ミニ工場」として、太陽エネルギーの力で植物に有用物質を作らせる方法を植物分子農業(以下、分子農業)という。
遺伝子組み換え微生物を「ミニ工場」とする精密発酵に対し、分子農業は植物に特定のDNA配列を導入し、植物に特定成分を作るようプログラムしている。精密発酵も分子農業も遺伝子組み換え技術を使用するが、いずれも最終製品には遺伝子組み換え成分は含まれていない。
ジャガイモによる卵白タンパク質生産では、ジャガイモが多様な気候で成長できること、成長コストが低いこと、土地あたりの収量が高いこと、既存の収穫技術を使用できるというメリットがある。
PoLoPoのCEO(最高経営責任者)Maya Sapir-Mir氏は、「分子農業による植物を使用したタンパク質の大規模生産は、ジャガイモの栽培と加工だけでなく、より広範な農業とアグテックを経済的に変革し、より柔軟で持続可能な食料システムを実現する可能性を秘めています」と述べている。
分子農業スタートアップは21社、国内でも2社登場
GFIが分子農業を第4の代替タンパク質の柱と位置付けたように、分子農業で食用タンパク質を開発する企業は近年増えている。分子農業はワクチンや抗体の生産に使用される確立された技術であり、近年、その開発対象は食用タンパク質にも広がりつつある。
Foovoの調査では、昨年9月の時点で国内外で21社が確認されており、この中にはイネを使って乳タンパク質の1種であるカゼインを開発するKinish、同じくイネを使って培養肉の開発で必要な成長因子を開発するNUProteinの日本企業2社も含まれている。
既存の生産者・加工業者と協力する生産システム
オボアルブミンは食感や安定性などの機能性、栄養価の向上や保存期間の延長などの目的で広く使用されている卵白タンパク質だ。オボアルブミン粉末市場は2032年までに360億ドルに成長すると見込まれている。
動物に依存しない卵白タンパク質生産は、卵の高騰、不安定なサプライチェーン、鳥インフルエンザなど業界が直面する課題を回避できる可能性を秘めている。
Foovoの認識では、分子農業によるオボアルブミンの開発が判明しているのはPoLoPoの1社のみ(卵タンパク質に取り組む企業は他にもいる)。一方、微生物を活用する精密発酵では複数の事例が確認されており、代表的企業にOnego Bio、The Every Companyがある。
精密発酵でオボアルブミンの販売認可を取得しているのは米The Every Companyのみとなる(同社は昨年10月、精密発酵オボアルブミンに対し、FDAから「異議なし」のレターを受領した)。
大規模な設備を必要とする精密発酵に対し、植物分子農業には既存のインフラを活用できるメリットがある。
PoLoPoは、ジャガイモ生産者や加工業者と協力し、従来の加工施設を利用してCPGメーカー向けにB2Bでの原料供給を目指している。
同社の事業モデルは、既存の生産者や加工業者が新しいタンパク質生産へ参加できる可能性を示しており、既存インフラの活用、既存業者との連携により、早期にスケールアップを実現できる可能性がある。
日本企業Kinishの取り組みについては、橋詰代表のセミナーをご覧いただきたい▼
参考記事
PoLoPo unveils SuperAA Platform: a protein biofactory in a potato
PoLoPo Unveils ‘SuperAA’ to Turn Potatoes Into Protein Factories Via Molecular Farming
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アイキャッチ画像の出典:PoLoPo