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TurtleTree、自社ブランドで精密発酵ラクトフェリンを発売|自社ブランド製品化の動きから見える資金調達ニーズ

 

TurtleTreeの精密発酵ラクトフェリンを使用したサプリメントがアメリカで発売された

現在、同社が立ち上げたブランド「Intentional」のオンラインストアで、精密発酵ラクトフェリンを使用したサプリメント「IronKind」が販売されている

Foovoが確認している範囲では、精密発酵ラクトフェリンを使用した製品が市場投入されるのはこれが初

TurtleTreeは商用化に向けて、Cadence Performance Coffee(2024年5月)などの企業との提携を発表しているが、実際にパートナー企業との製品発売は確認されていない。

シンガポールとアメリカに拠点を置くTurtleTreeは、2023年11月、世界で初めて精密発酵ラクトフェリンでGRAS自己認証を取得した。2024年12月にはオーストラリアのAll Gも精密発酵ラクトフェリンでGRAS自己認証を取得したが、All Gの上市は確認されていない。

鉄を含まない「IronKind」製品設計の狙い

出典:TurtleTree

今回発売された「IronKind」は、鉄分の吸収を改善する働きが期待されるが、製品自体に鉄は含まれていない。その設計には明確な意図がある。

TurtleTreeのブログ記事によると、従来の鉄剤は吸収率が1割~3割と低く、摂取した鉄の約8割が吸収されずに大腸へ送られる。吸収率が低いからと過剰摂取すると、腹部膨満感や吐き気、便秘、胃の不調といった副作用を引き起こすリスクがある。

「IronKind」は、こうした課題に対する「スマートな」選択肢として開発された。

主成分であるラクトフェリンは、体内の鉄吸収を高める働きを持ち、腸内環境を整えるプレバイオティクスと組み合わせることで、鉄の吸収効率を高めつつ、消化器系への負担を最小限に抑える処方となっている。

つまり、「IronKind」は鉄を直接補うのではなく、“鉄を効率よく吸収できる体内環境を整える”ことを目的としたサプリメントであり、鉄を摂らずに鉄不足を改善するという新しいアプローチとなる。

ラクトフェリンには鉄分の調整機能にとどまらず、免疫機能の向上や認知機能の維持といった効果も期待されており、健康をサポートする成分として注目されている。

また、IronKindに使用されているラクトフェリンは、動物由来ではなく精密発酵によって製造されたビーガン成分となる。

出典:IronKind

製品ページには、「Milk Protein (vegan precision fermentation-derived lactoferrin)」と記載され、精密発酵で作られたビーガンなラクトフェリンであることが明記されている。

「IronKind」は現在、1瓶37ドルで販売されているが、共同創業者のFengru Lin氏によると、4月28日より値上げが予定されている

細胞培養から精密発酵に軸足を移した戦略判断

出典:TurtleTree

TurtleTreeはもともと、細胞培養による母乳成分の開発で注目されたスタートアップだが、2021年10月、新たに精密発酵技術の導入を発表した。

現在も公式サイトでは、精密発酵と細胞農業の双方が技術領域として掲げられており、細胞培養による母乳や牛乳由来成分の研究開発も並行している様子がうかがえる。

一方で、TurtleTreeと同時期に細胞培養で母乳成分の開発を行っていたBIOMILQは、2025年2月に破産申請したことが報じられた

BIOMILQの破産は、元夫との係争により資金調達や買収が難航したことが背景にあると報じられている。Foovoの調査では、現時点で細胞培養技術を用いて乳成分で認可を取得した企業はまだ確認されていない。

こうした状況を踏まえると、TurtleTreeが細胞培養に先行して精密発酵によるラクトフェリンの製品化を優先させたことは、戦略的に妥当な判断だったといえる。

同社はすでに、精密発酵ラクトフェリン(使用微生物Komagataella phaffii)についてGRAS自己認証を実施し、FDAへの通知も完了している。現在は正式なGRAS認証の取得を待つ段階にある。

自社ブランド製品化の裏に見える資金調達戦略

出典:TurtleTree

もっとも、財務的な観点では楽観できる状況とは言いがたい。

TurtleTree2021年11月にシリーズAラウンドで3,000万ドル(当時約34億円)を調達して以降、新たな資金調達の報道は確認されていない。

同時期の2021年10月に2,100万ドル(当時約24億円)を調達したBIOMILQがその後、破産に至ったことを考えると、TurtleTreeにとっても資金繰りは喫緊の課題だと考えられる。

参考に、TurtleTreeの調達総額は3940万ドル(約55億円)、BIOMILQの調達総額は2450万ドル(約34億円)である。

Green Queenの報道によれば、同社は今年後半にもプレシリーズBラウンドで1,500万ドル(約21億円)の資金調達を目指しているという。Cadence Performance Coffeeも含め、同社以降に提携したStrive Nutrition(2024年6月)、Mad Foods(2024年11月)とも製品化は実現しておらず、提携の成果が見えにくい状況が続いている。

そうした中、同社が今回、自社ブランド「Intentional」で精密発酵ラクトフェリンを用いた製品を市場投入したのは、収益源の確保だけでなく、投資家への説得材料としての意味合いも大きいだろう。収益化の実績を示すことで、次の資金調達の実現可能性を高めたいという思惑が読み取れる

今後注目されるのは、TurtleTreeがこのまま追加の資金調達に成功できるのか、そして発表されている外部パートナー企業との製品が、実際に市場に出てくるのかという点だ。

 

本記事はTurtleTreeの公式サイトおよび製品情報に基づき、Foovoが独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています

 

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アイキャッチ画像の出典:TurtleTree

 

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