オランダのフードテック企業MaGie Creationsは、ビールの製造で生じる副産物ビール粕を原料とした乳化剤「PowerBond」の発売を発表した。
同社は、ビール粕由来の乳化剤は「世界初」だと述べている。
ビール粕は醸造廃棄物全体の85%を占めるといわれると言われるが、水分含有量が多く、腐敗しやすいため保存期間が短いことから、主に動物飼料や埋め立ての利用に限られていた。
「PowerBond」はこうした未活用資源を、食品用途での機能性素材として再定義する試みであり、焼き菓子から代替肉まで、幅広い食品への応用が可能とされる。クリーンラベル需要に応えたい食品メーカー、副産物を有効活用したビールメーカー双方にとって付加価値のある製品となりうる。
Foovoの推計では、日本国内でも毎年約90万トンのビール粕が発生しており(*)、MaGie Creationsの事例は、国内のビール産業にとっても応用可能性を示すものといえる。
ビール粕を有効利用した製品展開

出典:MaGie Creations
2017年設立のMaGie Creationsは、ベルギー・フランダース地方の様々な醸造所からビール粕を調達し、自社のアップサイクル技術により機能性のある食品原料を製造している。オランダ・ベルギーだけでも毎年104万トンのビール粕が生じているという。
今回発表された乳化剤「PowerBond」のほかにも、食物繊維・タンパク質が豊富な「PowerFlour」、クッキーやケーキ向けの風味剤「PowerSpice」などの素材を開発しており、同社素材はピザやハイブリッドソーセージなどの製品への使用が進んでいる。
また、消費者向けにはビール粕を15%以上使用したバー製品「Brewlicious」を展開し、Lokalist、Instock Marketなどでオンライン販売している。
製品開発を率いるEllen van der Starre氏は、「食の未来は、私たちが“何を食べるか”だけではなく、“どう作るか”にもかかっています。私たちはビール粕を徹底的に研究することで、この貴重なバイオマスに内在する機能特性を見出しました。それにより、原料の加工を最小限に抑えつつ、新たな残渣を生み出さない乳化剤『PowerBond』の開発が可能になりました」とプレスリリースで述べている。
代替肉の食感改善にも期待される乳化剤

出典:MaGie Creations
乳化剤は、水と油のように混じりにくい成分を、均一に混合させるために使用され、ケーキ、マフィン、アイスクリーム、マーガリンなどの食品に広く使用されている。
昨年発表された論文(Kothuri et al., Food Hydrocolloids, 2024)によると、乳化剤を用いたエマルジョンを植物肉に組み込むことで、保水性の向上、調理損失の軽減、異風味の軽減・風味向上など良好な官能特性が認められたという。
MaGie Creationsの乳化剤「PowerBond」も、食感や口当たりの改善、保水性の向上を謳っており、代替肉のような水分の安定性やジューシーさが求められる製品への応用において、植物性かつアップサイクル由来という点で、差別化された選択肢となりうる。
今後、オランダ国内で代替肉や焼き菓子への応用が進めば、食品業界における副産物の循環利用と食感改良の両立を実現する事例として、注目されそうだ。
ビール粕をアップサイクルする食品開発は海外で進んでいる。ベルギーのEverGrainは、AB InBevから原材料を調達し、ビール粕由来のタンパク質素材「EverPro」シリーズを展開。
イギリスのFermtechはビール粕と麹菌を活用した代替カカオを開発している。また、カナダのTerra Bioindustriesは昨年、ビール粕由来のタンパク質成分についてカナダで販売認可を取得した。
デンマークのセブンイレブンでは昨年、ビール粕を使用した代替チョコ入りクッキーが期間限定で販売されるなど、アップサイクル原料としての注目度は確実に高まっている。
また、2022 年に公開された不二製油の特許では、ビール粕由来のタンパク質を主成分(固形分ベースで30%以上)とする代替ココア原料を開発し、チョコレート様食品へ応用できることが示されている。
このように 国内の大手メーカーもビール粕の高付加価値化に注目し、特許出願レベルでの展開を進めている。今後は国内での研究開発、事業化もさらに進展することを期待したい。
*日本国内で発生するビール粕量は、下記を参照に、日本のビール生産量4,531万hLに、ビール100Lあたりビール粕20kgの副産物発生率を乗じて推定。
https://www.diec.co.jp/information/2021060343.html
https://www.linkedin.com/pulse/brewerys-spent-grain-market-situation-example-valorisation/
※本記事は、プレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像の出典:MaGie Creations