代替プロテイン

米The EVERY Companyが米国スーパーマーケットで展開を開始、約84億円を調達|精密発酵卵白で初の大規模な小売展開

出典:The Every Company

精密発酵で卵白タンパク質を開発する米The EVERY Company(以下、EVERY)は今月4日、シリーズDラウンドで5500万ドル(約84億円)を調達したと発表した

同時に、EVERYの卵白タンパク質を使用した製品が、全米のスーパーマーケット「ウォルマート」で販売開始されたことも明らかにした

精密発酵由来の卵白タンパク質、初の大規模な小売展開

出典:The Every Company

EVERYはKomagataella phaffiiを用いた2つの卵白タンパク質素材について、アメリカ食品医薬品局(FDA)から「質問なし」のレターを受領している

世界で最初に販売認可を取得した精密発酵卵白タンパク質の代表的企業であり、これまでスムージーマカロンプロテイン粉末製品などとして市場投入を進めてきた。プロテイン粉末製品「FERMY」は現在も販売が継続されているが、多くは限定的な販売にとどまっていた。

2025年11月時点で精密発酵由来の卵白タンパク質についてFDAから「質問なし」のレターを受領しているのは、EVERYとフィンランドのOnego Bioの2社のみ。そのうち、公開情報から市場投入が確認されているのはEVERYだけだ。

したがって、Foovoの調査に基づけば、今回の全米ウォルマートでの展開は、精密発酵卵白タンパク質の商用化における初の大規模な小売展開となり、これまで限定販売やオンラインにとどまっていた精密発酵卵白タンパク質が、本格的に小売に流通された点で重要な意味を持つ

月数トン規模の生産体制を確立

Arturo Elizondo氏(左) 出典:The EVERY Company

EVERYのタンパク質は工場の中で生産される。粉末状で常温保存可能で、賞味期限は18ヵ月。そのため、鳥インフルエンザや飼料価格の高騰といった要因による供給・価格変動に左右されない、持続可能で安定した原料供給源となりうる。

リンクトインの発表によると、ウォルマートに導入された製品に使用されているのは「OvoPro(旧称EVERY EggWhite)」。同素材は、卵の結着性・ゲル化性・起泡性・ホイップ性を再現したもので、卵や卵白の機能を部分的または完全に代替できる。

また、もう一つのタンパク質素材「OvoBoost(旧称EVERY Protein)」は溶解性に優れ、味と食感に影響を与えないことから、コーヒーやジュース、焼き菓子、シロップなど幅広い食品・飲料への応用が可能で、過去にはアルコールドリンクにも使用された(下記写真)。

出典:The Every Company/Pulp Culture

ウォルマートで販売されるOvoPro配合商品の具体的なカテゴリは公表されておらず、共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のArturo Elizondo氏に問い合わせをしているため、回答が得られ次第、追記する予定である。

プレスリリースによると、EVERYは調達資金を、製造能力の拡大、収益性への移行、そして2,700億ドル規模の卵市場、特にベーカリー分野への進出にあてる。同社はすでに毎月数トン規模の製品を製造しており、大手食品会社に対して数トン単位で製品を販売しているという。

発酵タンパク質への投資は、代替タンパク質分野の中で堅調だ。

Good Food Institute(GFI)によると、2024年には代替タンパク質分野で発酵タンパク質への投資がプラントベースや細胞性食品を上回り、総投資額の半分以上を占めた。2025年はこれまでのところ、プラントベースが上回るものの、発酵タンパク質は全体(約6.11億ドル)の約2.53億ドルと約41%を占め依然として大きな割合占めている

Foovoの認識では、精密発酵分野における今回のEVERYの大型調達は、2024年の独Formoの6,100万ドル(当時約86億円)に続くものである。持続可能で安定した供給源が求められる卵市場において、EVERYの原料が高く評価された結果といえる。

一方で、ウィスコンシン州で製造施設の建設を進めるOnego Bioとの間では、卵白タンパク質の特許をめぐる係争が進行している。

AgFunderの報道によると、両社はかつてライセンスや合併を含む協議を行っていたものの決裂し、現在はEVERYが取得した特許(米国特許12,096,784号)の有効性などを巡って訴訟に発展している。

 

※本記事は、プレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:The Every Company

 

関連記事

  1. 代替肉の米インポッシブルフーズが約560億円を調達、調達総額は2…
  2. 米Helaina、約65億円の調達で精密発酵ヒトラクトフェリンの…
  3. Umami Bioworks、ペットフード用途で細胞性シーフード…
  4. 米ケネディ長官、GRAS自己認証の廃止検討を指示|GRAS自己認…
  5. イスラエルのDairyX、精密発酵技術で自己組織化するカゼインミ…
  6. ポルトガルのPFx Biotech、精密発酵による母乳タンパクの…
  7. 培養肉企業MeaTechが約100グラムの3Dプリントされた培養…
  8. 欧州議会、代替肉の「ステーキ/バーガー」表示制限案で交渉方針を採…

おすすめ記事

廃水を活用して菌糸体タンパク質を開発するHyfé Foods、スケールアップを前倒しで完了

代替タンパク質などの必需品を持続可能な方法で生産するアメリカの気候テック企業Hy…

ゲノム編集で食・農業の変革を目指す米Pairwiseが新たな戦略を発表

ゲノム編集技術を活用して農産物を開発する米Pairwise(ペアワイズ)は先月、…

GOOD Meatがシンガポールで培養鶏肉の販売を一時停止、再開に向けて準備中

世界で最初に培養肉を販売したイート・ジャストの培養肉部門GOOD Meatが、シ…

オルガノイドファーム、2027年に細胞性食品のパイロット実証施設の開設へ|第7回細胞農業会議レポート

代表の山木多恵子氏2025年9月19日写真追加日揮ホールディングスの100%子会社として…

ソーラーフーズ、CO2由来の微生物タンパク質「ソレイン」で米国GRAS自己認証を取得

フィンランドのソーラーフーズ(Solar Foods)が、二酸化炭素を原料とした…

Orbillion Bio、欧州35ヵ国への培養牛肉販売に向けてパートナーシップを拡大

アメリカを拠点とするOrbillion Bioは欧州での培養肉上市に向けて、オラ…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

精密発酵ミニレポート発売のお知らせ

最新記事

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(11/07 16:13時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(11/07 02:48時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(11/07 06:20時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(11/07 22:13時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(11/07 14:13時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(11/08 01:31時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP