代替プロテイン

培養肉企業フューチャーミートが約394億円を調達、生産コストを110gあたり1.7ドルに削減

 

イスラエルの培養肉企業Future Meat(フューチャーミート)は20日、シリーズBラウンドで3億4700万ドル(約394億円)を調達したことを発表した。培養肉企業に対する1回の投資額では過去最大規模となる。

世界最大の農産物加工・食品原料メーカーであるアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)の投資部門ADMベンチャーズが共同でラウンドを主導、S2G Ventures、タイソン・フーズのベンチャーキャピタルTyson VenturesRich Products Venturesなどが参加した。

これにより同社の調達総額は3億8700万ドルとなった。

フューチャーミートは今年、本社のあるイスラエル、レホヴォトに世界初の培養肉工場を開設した。この工場では1日約500キログラムの培養肉を生産できる。同社は調達した資金を使い、アメリカに生産施設を建設する計画を立てている。

110グラムあたり1.7ドルまで生産コストを削減

出典:Future Meat

多くの培養肉企業が肉の「種」として幹細胞を使用するのに対し、フューチャーミートは線維芽細胞を使用する。線維芽細胞は幹細胞よりも「非常に丈夫で、わずかな成長因子のみで急速に自己複製する」特徴を持つという。

同社はさらに、動物成分を含まない増殖培地を使用する。創業者のヤアコフ・ナミアス教授によると、ひよこ豆や大豆などの植物から動物由来と同じ種のタンパク質を見出し、「数桁」のコスト削減を実現した。フューチャーミートが使用する増殖培地の価格は1リットルあたり約2ドルで、製薬会社が使用するコストの約10分の1になる。

また、培地のリサイクルを可能とする独自システムを構築することで、増殖培地に含まれる栄養素70%以上のリサイクルが可能になるという。

出典:Future Meat

こうしたアプローチによりフューチャーミートは今年5月、110グラムあたり培養鶏むね肉の生産コストを4ドルまで削減していたが、今回、110グラムあたり1.7ドルまでコスト削減したことを発表した。

2ドル以下までのコスト削減は来年になるとの見通しだったが、当初の予測を上回るスピード感でコスト削減を実現した。

「私たちは市場の予測よりも早くに、シングルセル技術と無血清培地処方により同等価格に達することができることを一貫して証明してきました。また、独自の培地活性化技術により、1リットルあたり1000億個を超える細胞密度を可能とし、業界水準の10倍の生産密度に相当することを証明しました」

(ヤアコフ・ナミアス教授)

培養鶏肉でアメリカ市場を目指す

出典:Future Meat

フューチャーミートは来年アメリカに大規模生産施設を着工するために、現在、複数地域を検討している。同工場の操業開始は2024年を予定している。

培地から生じるアンモニア廃棄物は肥料として活用できるため、農家に提供しやすい場所に工場を設置したいとも考えているという。

フューチャーミートがアメリカ進出を目指していることは周知の事実であり、ナミアス教授は「過去2年にわたってFDAと協議してきた」と述べ2022年末までの許認可取得を目指している

同社は細胞由来の牛肉、豚肉、羊肉を生産できる技術を有するが、アメリカで広く消費されている鶏肉に焦点をあてる。

「アメリカにはすばらしい代替肉バーガーがありますが、本当に良い代替鶏肉があるとは思っていません」(ヤアコフ・ナミアス教授)

培養肉企業への多額投資

出典:Future Meat

これまで培養肉の販売許可を認めたのはシンガポールのみ。アメリカのイート・ジャストは1年前、シンガポールのレストランで培養鶏肉を販売した。

培養肉に注入される資金は近年、急増傾向にある。イート・ジャストの培養肉部門GOOD Meatは10月に約110億円を調達した。今年1年で300億円以上を調達しており、シンガポールに続き、カタール、アメリカでの承認を目指している。

イスラエルのアレフ・ファームズは7月に約116億円を調達、先月にはドイツの化学大手WACKERと増殖培地の生産で提携を発表した。同社は俳優のレオナルド・ディカプリオ氏からも出資を受けている。

世界で最初に上場した培養肉企業MeaTechは今月、100グラム以上の培養ステーキ肉の生産に成功、食肉加工会社などへ培養肉生産技術のライセンス供与を目指している。

CE Delftの報告によると、培養肉の生産コストは2030年までに1キログラムあたり5.66ドル(約650円)になると予想される。フューチャーミートの生産コスト削減は、この予想を大幅に前倒しする可能性を秘めている。

ネスレJBSミグロスなど大手企業も培養肉参入を進めており、2022年には培養肉業界全体がさらに勢いを増すことは間違いない。

 

参考記事

FUTURE MEAT TECHNOLOGIES RAISES $347 MILLION SERIES B MARKING THE LARGEST INVESTMENT EVER IN CULTIVATED MEAT

Future Meat Technologies raises $347M and makes a $1.70 cell-based chicken breast

Israel’s Future Meat raises $347m, largest investment for cultured meat firm to date

‘The second it’s up, it’s going to change everything’: Future Meat Technologies raises $347m Series B to open US facility and drive down cost of cultivated meat

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Future Meat

 

関連記事

  1. スイスの培養肉企業Mirai Foodsがシードで約2億3千万円…
  2. 酵母由来の代替パーム油を開発するオランダのNoPalm Ingr…
  3. 植物の葉から食用タンパク質を開発するLeaft Foodsが約1…
  4. Yコンビネーターが支援する米培養肉企業Orbillion Bio…
  5. Vowが絶滅マンモスのDNAから培養マンモスミートボールを作製
  6. ドイツ大手小売業者REWE、同社初のビーガン専門スーパーを開設
  7. フードテック現地レポート会・セミナー動画|2024年10月開催
  8. ピーナッツから代替肉を作る中国企業HaoFood、2021年に中…

おすすめ記事

微生物・空気・電気からタンパク質を生産するソーラーフーズ、年内に工場着工、2023年前半に商用生産へ

空気と微生物と電気を使ってタンパク質を生産するフィンランドのSolar Food…

培養肉の法整備を目指す議員連盟が発足、年内に試食実現のための提言へ

自民党の有志議員による「細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟」が13日、発…

EUが出資するFEASTSが発足:欧州における培養肉・培養シーフードの未来を拓く共同研究コンソーシアム

先月、培養肉・培養シーフードに関する欧州のコンソーシアムFEASTS(Foste…

Calystaの単細胞タンパク質FeedKind、水産養殖への使用で米国GRASステータスを取得

動物飼料や食品向けの微生物タンパク質を開発・製造する米Calystaは、同社の主…

アレフ・ファームズ、シンガポール・イスラエルでの合意で培養肉の生産を強化

イスラエルの培養肉企業アレフ・ファームズ(Aleph Farms)は今月、シンガ…

英SEERGRILLSが開発した3分でステーキを焼き上げるAI搭載グリルPerfecta

イギリスのスタートアップSEERGRILLSは、わずか3分でステーキを焼けるAI…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(05/08 15:05時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(05/09 00:56時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(05/09 04:56時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(05/08 21:05時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(05/08 13:11時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(05/09 00:11時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP