一正蒲鉾は、培養肉のスタートアップ企業インテグリカルチャーとマルハニチロの3社で、魚類の筋肉細胞培養技術の確立に向けた共同研究開発を開始することを発表した。
インテグリカルチャーは国内を代表する培養肉企業で、これまで牛、鶏、エビの培養肉を開発してきた。同社は2021年8月、水産業界最大手のマルハニチロと培養魚肉の共同研究を開始した。
二社の共同研究では、インテグリカルチャーが確立した食品グレードの培養液と大規模な細胞培養システム「カルネットシステム」を魚類の細胞へ拡張し、生きた検証に必要な魚細胞の提供をマルハニチロが担っていた。
今回、かまぼこ、カニかま、ちくわなど水産加工食品を製造販売する一正蒲鉾が加わり、水産加工食品向けに研究対象を拡大し、培養魚肉の商業生産を目指す。
水産庁が発表した水産白書によると、1人当たりの食用魚介類の年間消費量は過去50年で約2倍に増加している。昔から魚を食べる習慣のあるアジアやオセアニアでは生活水準の向上に伴い、顕著な増加を示している。特に中国では、過去50年で約9倍、インドネシアでは約4倍となるなど、新興国の伸びが目立つ。
これに対しFAOによると、世界の海洋水産資源のうち、過剰に漁獲される資源の割合は1974年の10%から2017年には34%まで増加した(グラフ、オレンジ色)。下記グラフは、過去約40年で持続可能なレベルで漁獲されている水産資源(グラフ、水色)が90%から65.8%に減少していることを示している。
水産資源の枯渇やマイクロプラスチック残留の問題などを背景に、持続可能な水産資源の開発に注目が集まっている。その1つの手段と期待される培養魚は、魚から採取した細胞をバイオリアクターの中で増やし、成長させて魚肉にするもので、世界的に参入企業が増えている。
培養魚の販売を認可した事例はまだないが、アメリカのWildTypeがサンフランシスコに培養魚のパイロット工場を開設するなど、大量生産に向けた動きが進んでいる。
国内で培養魚の開発・製造を手掛ける企業はインテグリカルチャーに限られるが、スシローを運営するフード&ライフカンパニーズが米BlueNaluと培養マグロの商業化で提携したほか、住友商事がBlueNaluに、ダイニチがFinless Foodsに出資するなど、パートナーシップは拡大している。
国内では培養肉・魚肉の法規制はまだ確立されていないが、厚生労働省が培養肉に関する研究を年度内に実施する方針を示したほか、培養肉の事業化に向けて法整備を目指す議連が6月に発足するなど、細胞農業の普及を加速させる動きが目立つ。
水産練製品業界トップクラスのシェアを誇る一正蒲鉾と、水産売上国内トップのマルハニチロの参入は、国内の細胞農業の社会実装に大きな影響をもたらすと期待される。
参考記事
細胞培養スタートアップ企業のインテグリカルチャー社とともに 「魚類」の筋肉細胞培養技術の確立に向けた共同研究開発を開始
インテグリカルチャー、一正蒲鉾、マルハニチロの3社が共同で“培養魚肉”の研究開発の開始を発表
関連記事
アイキャッチ画像の出典:一正蒲鉾、マルハニチロ、インテグリカルチャー