イスラエルの培養肉企業Steakholder Foods(旧称MeaTech)は今月、日本で登録商標を取得したことを発表した。この動きは、Steakholder Foodsの日本市場進出計画における重要な一歩といえる。
同社は今年、シンガポールの培養シーフード企業Umami Meatsと提携し、バイオ3Dプリンターによる培養シーフードを開発することを発表した。開発種の中にはウナギなど日本で人気の魚種が含まれることから、Steakholder Foodsが日本市場進出を視野にいれていることがうかがえる。
今回の発表は、Steakholder Foodsのアジア市場進出に向けた取り組みを反映している。
2019年設立のSteakholder Foodsは工業化された畜産・漁業の代替手段として、牛肉、鶏肉、豚肉、魚介類製品など培養肉製品を生産するためのソリューションを開発している。同社は2021年3月に米国ナスダック市場に上場し、イスラエルのレホヴォト、ベルギーのアントワープに施設を有しており、最近では活動の場をアメリカへと拡大している。
9月にはバイオ3Dプリンティングにより、筋肉組織と脂肪組織の複数の層で構成された培養霜降り牛肉を発表。
先月には、筋肉組織に外力を与えて高品質で複雑な構造肉を開発するシステムと方法について、アメリカで特許を取得した。Steakholder Foodsによると、味は比較的簡単に調整できるが、消費者の好みを左右するのは、肉の食感となる。取得した特許は、動物が歩き回ったり草を食べたりするときに筋肉が自然に発達するように、筋肉組織を「運動」させて望ましい食感を実現するための方法論と技術に関するものだという。
食品構造の開発では一般にハイドロコロイドという成分が使用されるが、この技術を使うとハイドロコロイドに頼ることなく培養組織の食感を改善できるため、他社に対して大きなアドバンテージになると考えているようだ。
これまで培養肉の販売を認めた国はシンガポールに限られる。シンガポールは輸入依存からの脱却を目指し、食料自給率を向上させるという食料安全保障の一環として数年前から代替タンパク質を推進している。シンガポール国内での培養肉の提供はまだ非常に限定的だが、本格普及に向けてアジア最大となる培養肉工場の建設を開始している。
国内でも法整備を目指す議連が発足し、厚生労働省が培養肉生産工程のリスクを洗い出す研究班を設置する方針を固めるなど、ルール形成を促進する動きが見られている。
今秋以降、河野食品安全担当大臣が東大・日清食品ホールディングスが作製した培養肉を視察したり、星野つよし衆議院議員が培養肉を開発する清水達也教授の研究室を訪問するなど、政府内での関心も高まってきている。
少ない資源で効率的に食料を生産する細胞農業の社会実装を進めることは、日本の食料安全保障に寄与するものであり、産業競争力の強化にもつながる。ルール形成の遅れは、国内企業の産業上の不利を招き、国際競争力の低下を招くため、さらに踏み込んだ国主導の動きを期待したい。
参考記事
Steakholder Foods® Receives First Registered Trademark in Japan
Steakholder Foods™ Gains Competitive Edge with First US Patent
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アイキャッチ画像の出典:Steakholder Foods